ステークホルダー資本主義も持続性のある資本主義も、かたちを変えた資本主義にすぎない。環境問題とは無縁の時代に生まれた概念だ。経済を生物界の内部にあるものとしてとらえる資本主義など存在しない。ステークホルダー資本主義は、脱経済成長モデルを拒む古くさい考え方だ。
資本主義が唯一の有効な経済システムだ、という主張には同意しかねる。資本主義に取って代わるシステムは北朝鮮やスターリン主義だけだ、などと考えるのは想像力の欠如だ。現にオランダのアムステルダムなど、資本主義の代案として、すでに再生経済や循環経済を取り入れた都市もある。
──よき祖先になるには、考えたり、探究したりする時間が必要だとして、6つの質問から成る「グッド・アンセスターの対話」を提唱していますね。
変化は対話から始まる。意見を異にする誰かと対話を重ねることは、パワフルな変革の力になる。まず、これまでの人生のなかで最も奥深い「ディープタイム」体験はどのようなもので、それが自分にどう影響を与えたかを考える。
2つ目が、世代間の公正に関する問いだ。自分が未来の世代を大切にするのはなぜか、その最もパワフルな理由は何かという問いかけだ。
3つ目は、「レガシー・マインドセット」に関するものだ。家族やコミュニティ、生物界に何を残したいか。
4つ目が、「人類の『超目標』とは何か」という問いだ。
5つ目は、人類を待ち受けているものは文明崩壊か急進的な変容か、はたまた別の道かという「全体論的な予測」に関する質問だ。
そして、6つ目が、「他者とともに、どのような長期プロジェクトを追い求めるか」という「大聖堂思考」に関する問いだ。
──読者にメッセージを。日本の経済人は、上記6つの質問をどう生かすべきでしょうか。
対話には勇気が要る。若いテック起業家の読者なら、チームメンバーと話し合うのもいい。「私たちの会社は、どうすれば『よき祖先』になれるか。損益決算書を超えて何ができるか。6つの質問を使って考えよう」と呼びかけるのだ。
「よき祖先」という概念を実践している企業を参考にするのもいい。本物の起業家は、市場だけでなく、事業設計でもリスクを取り、自然との付き合いでも起業家精神を発揮するものだ。日本経済には長期主義の文化や伝統がある。日本の企業リーダーが未来に目を向ければ、大変革が起こるだろう。
ローマン・クルツナリック◎イギリスの文化思想家。オックスフォード大学政治社会学博士課程取得後、ケンブリッジ大学などで、社会学と政治学の教壇に立つ。2008年、スクール・オブ・ライフを創設。以降、国連、オックスファムのアドバイザー。著書に『グッド・アンセスター』など多数。