企業社会は極端な「短期主義」病に侵されている。長期思考の点から見ると、企業ほど最悪の場所はない。
では、企業リーダーは何をすべきか。英食品・日用品大手ユニリーバなど、四半期決算を撤廃した企業もある。賞与を環境保護的なパフォーマンスに連動させる企業もある。だが、もっと徹底的な措置が必要だ。立派なパーパス(存在意義・目的)を口にしながら、サステナビリティ(持続性)のための予算を削ったり、撤廃したりする企業は多い。事業自体を根本から変えることが重要だ。
「未来は植民地化されている」
──「最も大きなサイレント・マジョリティ」は未来の世代であり、「未来は植民地化されている」という強い言葉を使っていますね。私たちがどのように資源を使い、河川を汚し、プラスチックを海に廃棄し、CO2を排出するかが、未来の世代の生活に影響する。私たちは未来の世代をコントロールしており、彼らはまだ小さいか生まれていない無力な存在だ。この極度の「無力感」を「植民地化」という言葉に込めた。
私たちの子どもや孫は、私たちを、CO2排出や経済成長・株主価値の果てなき追求を行った世代だと評するだろう。人々は、経済が生物界のサブシステム(下位)であることを認識していない。
──「よき祖先になることは、難易度の高い課題」と指摘していますね。なぜ難しいのでしょう?
脳には、私が「マシュマロ脳」と呼ぶものと「どんぐり脳」と呼ぶものがあり、人間は、そのせめぎ合いのなかで生きている。マシュマロ脳は、目先の報酬や満足感という短期思考を意味する。一方、どんぐり脳は、将来の計画を立てるといった長期思考のことだ。
企業も、異なる時間軸のなかで葛藤している。進歩的な経営者は何十年単位のスパンで物事を考えるかもしれないが、納品や金融市場の混乱への対策など、短期的サイクルでの対応も必要だ。つまり、どんぐり脳にフォーカスして長期思考を駆使することは、人間にとって「難題」なのだ。
とはいえ、非常に多くの建築やデザイン、公共政策などが「大聖堂思考」という長期的ビジョンの下で築かれている。例えば、宮城県の女川原子力発電所は東日本大震災の津波にも耐えたが、高い防潮堤や主要施設を高台に築いたおかげだといわれている。エンジニアのメンタリティに、遠い将来を見据えた大聖堂思考が見て取れる。
──そうした長期プログラムから、現代人は何を学ぶべきでしょう?
「徳川家の森の植林整備」や欧州連合(EU)の創設など、さまざまな長期計画をまとめた表「人類の歴史にみる長期計画」を書籍に掲載した。そこから読み取れるのは、科学やインフラ、公共政策、都市計画などにおける人類の進歩だ。
また、世界保健機関(WHO)の創設も日本経済の再建も、第2次世界大戦という「危機」を経て起こった。時として、危機は迅速な変革を促す。
ひるがえって私たちは、コロナ禍という「変革の機会」を生かせなかった。大半の国々の政府は依然として、「経済成長」という従来の発想から抜け出ていない。一方、「脱成長経済」や「循環経済(サーキュラーエコノミー)」という考え方が普及してきたのも確かだ。次の危機が変革のチャンスだ。