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2023.05.16 15:00

誰が描いたかが大切だから、イラストが得意な主婦がiPadで突如まんが家に

「パスワードって何ですか? Wi-Fiってどうしたらいいですか? といったレベルでした。わからないことがでるたびに塩田さんに聞いたのですが、サポートセンターのように教えてもらって、なんとか慣れていったんです」

最初に使ったアプリはMediBang Paintだった。プロのまんが家も愛用するフリーアプリで、iPadはその開発会社MediBangがPRも兼ねて提供してくれた。

デジタルでイラストやまんがを制作する際、欠かすことのできないのがレイヤー機能だ。この機能があれば、すべてを1枚のキャンバスに描くのではなく、セル画のように透明のキャンバスを重ねてパーツごとに描けるし、調整や修正も簡単にできるようになる。友紀さんは、このレイヤーという概念も知らなかった。

「こんな便利な機能があるんだと驚きました。iPadなら、何度でもやり直せる。もし紙でスタートしていたら到底無理だったと思います」

与えられた期間は1年。120枚の原稿を仕上げる必要があったため、デッサンやスケッチの練習期間もなく、最初からすべて本番だった。



イラストが得意だったとはいえ、描けないと悩むことはなかったのだろうか。

「描けなくなるときもありました。でも、そういうときは自分の理想が高くなっているときです。もっと良いものを描きたいという気持ちが強く出てしまっている。『伝わればいい』とと思って描きました」と友紀さんはいう。

仏壇が捨てられていたシーンを描くのに、その扉に施された装飾や家紋まで写実的に描く必要はない。上手に描こうではなく、伝わる絵を描こうと友紀さんは努力した。編集者の塩田さんは、そのときのことをこう語る。

「iPadで描いたまんがは、アプリを通じてプロジェクト共有できるので、友紀さんの進捗状況はリアルタイムで僕のスマホで確認できました。進んでいないなと気づいたときはときは『1本の線でいいから描きましょう』と伝えました」

1本描けば、2本目に繋がる。描けないときでも、その1本が大事だと励まし、友紀さんはそれに応えた。また、他の作家のエッセイマンガを読んでみてはとアドバイスもした。まさに二人三脚で作り上げて行った。
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編集=安井克至

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