AIは過去のものに、脳細胞を利用する「オルガノイド知能」登場の日は近い

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とはいえ、AIもOIも効率アップの手段としては有用である。AIは計算をしたり、個人に合わせた提案をしたり、手作業を自動化したりでき、人間の脳よりもはるかに高速に情報を処理する。一方で限界もあり、現在のAI技術は逐次処理型で、数学的に時系列で処理できるタスクにのみ秀でている。人間の脳は、逐次処理に加えて複数の情報を同時に分析できる並列処理の能力に優れており、わかりやすく視覚を例にとると、物体の色や形、位置、反射速度などを瞬時に識別できる。

知らない情報や移ろいゆく情報に遭遇したとき、人間の知能はコンピュータより各段に優秀だ。新しいタスクを学習するのに必要な試行回数はぐっと少なくて済む。ある研究によると、同一のものと異なるものをより分ける単純な課題を人間はたった10回の訓練で習得できたのに対し、AIコンピュータは1000万回の学習セッションを経ても習得できなかった。複雑なタスクの実行中は機械学習の効率が低下するだけでなく、コンピュータが必要とするエネルギーも大幅に増加する。2016年の試算では、米国を拠点とするデータセンターすべてのエネルギー需要を満たすには発電所34基が必要だとの結果が出た。対照的に、人間の脳は記憶容量の上限がまだ確定していない上に、ごくわずかなエネルギーしか必要としない。

OIは生物学的学習の利点を活用して自動化を強化し、エネルギー消費を削減できる可能性を秘めている。脳オルガノイドは、人間の脳が学習や記憶といった複雑なタスクをどのように行っているかについて知見をもたらす。これは、オルガノイドの開発が近年進歩し、脳の微細構造と機能を再現できるようになったおかげで可能になった。脳オルガノイドは、脳波で記録された脳活動を再現するように自発的な電気神経活動を示し、刺激に反応することがわかっている。

電気的な活動があるところでは、ニューロン(神経細胞)同士をつなぐ接合部であるシナプスが活性化され、情報を記憶として保存できる。人間の脳には何兆個ものシナプスがあり、生涯を通じておそらく無限の情報を保存することが可能だ。同様の記憶容量を達成するため、研究者は脳オルガノイドの現行モデルのスケールアップを目指している。近い将来、実験室で培養された脳細胞を搭載したコンピュータが登場し、より少ないエネルギー消費でより効率的に大量のデータを記憶・検索できるようになるかもしれない。
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編集=荻原藤緒

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