AIは過去のものに、脳細胞を利用する「オルガノイド知能」登場の日は近い

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世界はこのところ進歩の著しい人工知能(AI)の虜になっているが、米ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームは、新たな知能の形態として「オルガノイド知能(OI)」という分類を編み出した。実験室で培養された脳細胞がコンピュータを動かす未来は、私たちが想像するより早く訪れるかもしれない。

オルガノイドとは、ヒト多能性幹細胞(hPSC)を基に作られた3次元細胞培養物だ。人間の臓器と同様に機能するよう設計して主要な構造的・生物学的特性を再現できる。適切な実験室条件下で、基となる幹細胞からの遺伝的指示により自己組織化し、人間の脳などあらゆる種類の臓器組織を形成することが可能だ。

まるでSFのように聞こえるかもしれないが、脳オルガノイド(ミニチュア脳)は10年近く前から神経変性疾患のモデル化や研究に用いられてきた。そして、この脳オルガノイドが学習能力を持つ可能性があることが、最近の研究で明らかになった。豪メルボルンの研究チームは、80万個の脳細胞を訓練してコンピュータゲーム「ポン」をプレーさせることに成功したと報告している。この分野の研究が進むにつれ、いわゆる「シャーレの中の知能」である脳オルガノイドがAIを凌駕するのではないかと研究者たちは推測している。

知能とは、広義には情報を取得・保存・適用する能力を指す。これは人間の経験をよく表している特徴の1つだ。どんなタスクであれ、実行するには意識や自己認識に関係なく、ある程度の知能が求められる。たとえば、ChatGPTのようなAIチャットボットプラットフォームはユーザーとのリアルタイムなやりとりの中で独自に選別・編集した応答ができるが、その知能の範囲はデータベースのアルゴリズムに縛られている。

コンピュータは、本質として自ら「考える」ことも「感じる」こともできない。脳オルガノイドも同様に、タスクの実行を学習することは可能でも、意識を持ち得るという証拠はない。人工知能やオルガノイド知能に言及する場合、思考や感情といった人間特有の能力を投影しないよう注意しなければならない。知能だけでは、意識という主観的な感覚には不十分なのだ。
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編集=荻原藤緒

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