メタバースは「死んだ」のか? AIブームの影で投資減少

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2021年10月にメタバース戦略のビジョンを打ち出した米メタのマーク・ザッカーバーグCEOは、その発言やデモを通じ、メタバースがすぐそこまできているような印象を世の中に与えた。同社はVRヘッドセット「Quest」で一定の成功を収めており、Quest 1とQuest 2を購入した100万人以上のユーザーに対して仮想現実(VR)のポテンシャルを示していた。

それから2年近くが経った今でも、ザッカーバーグはメタバースの将来性を強く信じている。しかし最近になって人工知能(AI)により注力するようになり、事業とオペレーションの合理化を図って短期的な収益性を高めようとしている。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は3月末、「仮想世界『メタバース』に厳しい現実」と題した記事で、メタバースがすぐに実現するという認識は誤りで、テック業界がAIにシフトしている現状を報道。しかし同時に、「ザッカーバーグ氏はメタバースから手を引くつもりではなく、今もAIに次ぐ長期的な優先事業だと言及している。『当社のロードマップをけん引する主要なテクノロジーの波は二つある。現在はAI、より長期的にはメタバースだ』と先月述べた」とも指摘した。

メタバースの実現と普及に遅れが生じている大きな要因として、以下の3点が挙げられる。

1点目は、現実世界と仮想世界とのギャップを埋める機能と品質を備えた技術を開発するのが困難であることだ。高度なヘッドセットをマスマーケットに普及させるために必要なテクノロジーの課題や、消費者に受け入れられるデザインを考えると、ハードウエアの実現だけでもまだ何年も先になると筆者は確信している。

2点目は、メタバースに対する消費者の需要を促進する、広範なビジネスモデルの構築だ。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)やシーメンスなどの大企業もこの分野に進出しているが、広範な消費者を取り込むためのキラーアプリケーションやハードウエアの開発は、まだ誰も成し遂げていない。

そして3点目は、テクノロジー関連の投資がメタバースを離れ、AI分野にシフトしていることだ。このことにより、メタバース分野におけるイノベーションや進歩は当面後退することになるだろう。
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編集=上田裕資

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