事業継承

2023.05.10

家業に戻ったら仕事がなかった。富山のランドセルメーカー3代目の奮闘

「ハシモト」代表の橋本昌樹

次に取り組んだのが、人事評価制度の改革でした。ランドセルの製造現場では、「製造目標を達成できなくても、良いものをつくっているのだからそれでいいだろう」という、昔ながらの職人気質な考え方が残っていました。それでは生産効率があがらないので、評価制度から変える必要があると考えたんです。

その後3カ月ほどかけて、全工場をまわりながら社内の改善点をリストアップしていきました。これをもとに、賛同してくれた従業員数人ととともに、人事評価制度改革を実行する「ハシモト商店プロジェクト」を立ち上げました。

このプロジェクトの成果のひとつが、1人が1時間あたりにできる作業量をはかる「人時(ニンジ)」という言葉の浸透です。これはジーユーでも使われている言葉ですが、数字で作業量を可視化して生産効率を意識できる点がメリットです。

今では「今日は生産人時が悪かったけどなぜだろう」とか、そういう会話が社内で普通にされるようになっています。

さらに、1人ひとりの従業員に関して、担当部署内の全業務の「できる/できない」を書き出したスキルマップもつくりました。それをもとに個々人にスキル向上に向けた年間計画をたててもらい、毎月面談で上司が進捗度合いをチェックしたり、スキルアップが達成できるように相談にのったりしています。

——改革には批判や戸惑いもつきものかと思いますが、従業員の理解を促すためにどのようなことをされましたか。

従業員の方に認めてもらうためには、まず1つ実績を出すことが必要だと考え、モデルケースをつくりました。とある従業員の人時を、1万円から1万3500円に上げました。1時間あたり3500円分多く生産できるようになったということです。

そこからだんだんと認めてもらえるようになっていきました。

過渡期のランドセル市場でどう戦うか

——そうして信頼と実績を積み重ね、2021年末には社長に就任しました。先代からどのような期待がありましたか。

まずはランドセル事業の安定した運営と、シェアの獲得です。子どもが減り続けるなかで、シェアをどうとっていくかというのは課題です。

もう1つは、自分の事業を立ち上げることです。祖父は「布製学生カバン」の製造・販売をするハシモト商店を立ち上げ、父はランドセル事業を立ち上げたので、次は自分の番だと。

特にコロナ禍で、どんなに盤石な事業でも環境が変われば消えてしまうリスクがあることがわかりました。従業員の生活を守るためにも、ランドセルに頼らない新しい事業の柱をつくることは僕の役目だと思っています。

——ランドセルのニーズはどのように変化していますか。

2024年度の新モデルは2月に発表しましたが、昨年からの入れ替えデザイン数が過去最大になりました。フィットちゃん史上最軽量のランドセル「ゼロランド」(940g〜)など80色200種類以上を展開し、うち66種類が今年度から新たに加わった商品です。

「ゼロランド 安ピカッ /楽ッション」(税込6万6000円、8色)、楽ッションのない「ゼロランド 安ピカッ」は税込6万500円(5色)

ランドセルは子どもが喜ぶ「デザイン」と親御さんが納得する「機能」を両立させることが大切です。検討時には「色、デザイン、軽さ」だけで見ている方も、実際の購入時には、容量や耐久性、6年間保証、そしてランドセル本体の軽さより、背負ったときに“軽く感じるかどうか”を重視される方が多いですね。

昨今は授業へのタブレットの導入で「重すぎるランドセル問題」が話題になっていることもあり、お客さまアンケートでも「さらに軽く感じる機能」を求める声も圧倒的に多いんです。本当はランドセルの中身を軽くするしかないのですが、我々にはできません。

そこで、子どもがより軽く感じるように、人間工学に基づいた独自開発の肩ベルト「楽ッション(らくっしょん)」を採用するなど工夫を凝らしています。
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文=久野照美 取材・編集=田中友梨 撮影=小田光二

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