池田さん:そして今、宇宙バイオ実験向けに開発しているのが「MID board」です。Raspberry Piというシングルボードコンピューターにケーブルでつなぐとカメラ用のコマンド操作で簡単に使える、いわば「コンピューター付き顕微鏡」です。名刺の半分ほどの大きさなので、1Uサイズの衛星にも収まります。
研究者の方々の目的や用途に応じてヒーター、ポンプ、流路などのモジュールを組み合わせて宇宙用の実験ユニットを作り、複数の提携先の宇宙輸送サービスパートナーの人工衛星などに搭載して、宇宙バイオ実験を成立させるのが私たちIDDKのサービスです。
せりか:宇宙でのバイオ実験はどのようなメリットがあるのでしょうか。改めて教えてください。
池田さん:せりかさんがISSでやっていたようなタンパク質の結晶を生成する実験はきれいな結晶ができやすくX線構造解析に有用とわかっていますよね。最近だと人工臓器の創出が期待される「オルガノイド」の実験は、種類によっては微小重力下の方が形成されやすいという報告も出てきていますね。
でも、宇宙での実験の意義はそれだけではありません。なぜひとが宇宙に行きたいかというと探究心や冒険心、好奇心を満たしたいから。極限環境にも耐えられるモチベーションがあるので、最低限の設備だけでも生活することができます。
ただ、将来、宇宙が人類の生活圏となり宇宙での生活に慣れてくるとやはり足りないと感じるものも出てくるでしょう。設備や環境、衣食住を充実させていく必要がありますが、こうした宇宙でのクオリティオブライフ(生活の質)を向上させる研究は、まだ全然進んでいません。
研究の場であるISSは実施できる実験にいろいろな制限や制約のある狭き門であることは否めません。人類が宇宙進出を目指すために、私たちIDDKは、イノベーションに向けてひとつずつ積み上げていく……門戸を開いた実験・研究の場を提供していくべきだと思っています。