宇宙

2023.05.01 18:00

指先サイズの顕微観察装置が加速させる、新・宇宙利用【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#18】

池田さん:私は修士課程までは生物工学、博士課程からは医学に転向し、助教や講師として大学で研究を続けていました。

博士課程の大学院生だった1990年代後半は、クラゲ由来の蛍光タンパク質(通称GFP)が研究に使われ始めた時期でした。この蛍光タンパク質がいろいろな工夫で目印となり、細胞のなかの物質の動きが捉えられるようになったんです。私たちの研究では、蛍光タンパク質を用いた細胞のタイムラプスイメージを撮影できる設備を導入しました。

それまでは細胞を固定してスナップショットを撮影していたのですが、生きた細胞の動きをそのままタイムラプスイメージで見られるようになると、想像をはるかに凌駕する知見が得られるようになり、感銘を受けましたね。

その後製薬メーカーの子会社にあたる研究所に転職してからも、細胞の動きを捉えるイメージング、顕微観察にこだわっていました。特に生きた実験動物の体内を顕微観察することに力を入れていて、例えば、がん細胞の成長過程や薬剤を投与した瞬間に細胞がどんな反応を起こすかなどを2光子レーザー顕微鏡で観察しながら、創薬研究などを行っていました。

上野さんと出会ったのは、MIDの営業で研究所の親会社から紹介されたときです。私は畳四畳半分くらいの巨大な顕微鏡を使っていました。だから、指先サイズのMIDを見たときは、思わず「これを体内に埋め込んだら、すごいことになるだろうな」と、使ってみたくなりました。

ただ、創薬は研究の段階によってイメージングが必要なときとそうではないときがあります。MIDを知ったときは盛り上がっていたんですが、その後、イメージング技術を活用する機会が減り、残念ながらIDDKとの協業は叶いませんでした。でも上野さんとは意気投合して、飲み友達として交流はずっと続いてたんですよ(笑)。

上野さん:そうですね。IDDKを創業した当初は、MIDを再生医療やラボラトリーオートメーション(実験や研究を自動化する取り組み)で活用していただこうと考えていました。でも将来的にはMIDの特性を活かして宇宙でのバイオ実験にも活用していただきたいとピッチでは話していました。

そうしているうちに、だんだんと衛星の打ち上げが身近になり、衛星で科学実験を行うサービスを掲げる企業も増えてきました。今までは再生医療やラボラトリーオートメーション向けに検討していたMIDを衛星に搭載すれば、「宇宙バイオ実験ユニット」が実現できるのではないかと考え、少しずつ舵を切り始めたところです。

池田さん:上野さんから「宇宙バイオ実験をやるから、兼業でアドバイザーとして参画してくれないか」と声をかけていただきましたが、前職では兼業がNGでした。でも、イメージングの業界にまた携わりたい、宇宙というワクワクしたキーワードに私も関わりたいと思い、IDDKへの転職を決めました!

小型の顕微観察装置で、宇宙でのバイオ実験を手軽に

せりか:MIDは指先サイズの顕微観察装置ということですが、特徴を詳しく教えてください!

池田さん:従来の顕微鏡はサンプルを拡大して見るために「対物レンズ」が必要です。サンプルをより拡大して見るには倍率が高い対物レンズを選びますが、倍率を上げれば上げるほど、視野が狭くなるのが課題です。

一方、MIDはフォトダイオード(光センサ)が細かく並んでいて、触れるくらい近くのものを直接顕微観察できるんです。つまり、設計したフォトダイオードの部分がそのまま視野になる……高い倍率でも、視野が狭くならないのが特徴です。

(c)IDDK

(c)IDDK

例えば、これはMIDでクマムシを撮影したものです。
(c)IDDK

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