賛成の立場の人は2つの理由を挙げるだろう。第一に、SVBは直面しているのは、流動性の危機であり、債務超過ではない、という見方である。税金を投入するまでもなく、預金は全額保護できるという論理である。第二に、ドミノ倒し銀行破綻を防ぐには、最初に破綻した銀行で全額保護を打ち出すことが正しい選択だ。
一方、全額保護には反対論もありうる。第一に、そもそも預金保険による保護に上限があるのは、預金保険は少額預金者だけを保護すればよいという、消費者保護的考え方である。大口預金者は資産家で金融リテラシーもあるので自己責任だと考える。
第二に、流動性の危機を危惧する銀行は預金を集めようとして、多少高い金利の預金商品を提供する。預金ではあるが、破綻リスクを考えるとハイリスク・ハイリターンの商品である。これを承知で預金する大口の預金者は実は投機者であり、このような行動を保護する必要ない。全額保護を実施すると、モラルハザードを引き起こすというものだ。
このような銀行危機の余波は日本には来ていない。
主な理由は、日本のインフレ率が欧米に比べて低いので、金利上昇が微々たるもので、長期国債の評価損が発生していないからである。しかし、日本の賃金上昇が大幅となり、インフレ率が継続的に目標の2%を超えるようであれば、10年継続した異次元緩和の金融政策も転換されるかもしれない。
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002ー14年東京大学教授。近著に、『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。