銀行危機と預金保護

伊藤隆敏の格物致知

3月10日(金)にカリフォルニアのシリコンバレーバンク(SVB)が破綻した。連邦預金保険公社(FDIC)が管理下に置き、預金を全額保護する、とした。その2日後にはニューヨークのシグネチャーバンクが破綻した。これをきっかけに、アメリカの地方銀行のいくつかから大きな預金流出が起きた。

銀行不安は、欧州にも飛び火して、3月19日に、スイスの2大銀行のうちのひとつクレディ・スイスが、スイスの銀行当局の仲介で、ライバルのUBSに買収されることとなった。

SVBの破綻は、根本的には教科書的な破綻だが、破綻を急速なものにした特殊要因もある。

教科書的というのは、金利の急上昇によって保有する長期国債の市場価値が下落して危機に陥ったという点である。長期国債の未実現評価損を計上すると、大幅に資本が棄損する。ただし、市場価値の下がった長期国債を満期まで保有すれば、満額の償還を受けるわけなので、満期までの保有を宣言して未実現評価損を計上しない、ということができる。

しかし、満期保有による価値回復がうまくいくためには、条件がある。

急激かつ大規模な預金引き出しが起きると、支払いのために、未実現評価損が出ている国債を売却せざるをえなくなる。そうすると、未実現評価損が実現損となり、(満期まで保有することによる)取り戻しが不可能になる。まさに、これがSVBで起きて、そのことをSVBが公表したことで、その後預金流出が急加速した。

また、ひとつの銀行に取り付け騒ぎが起きて経営破綻が起きると、次に危ない銀行がどこだと預金者が不安になり、次から次へと預金引き出しと銀行破綻が続くことになる。いわゆるドミノ倒しの銀行危機である。

銀行取り付け騒ぎが起きないようにする、そしてドミノ倒しのような危機の伝播が起きないようにするのが、銀行監督と預金保険制度の役割だが、今回のSVB危機では失敗して、結局預金を全額保護することになった。ドミノ倒しを防ぐための最後の手段と言える。

SVBのケースで特異なのは、SVBの預金のうち90%が、預金保護の対象外の大口預金だったことで、それが急速な引き出しにつながった。大口預金者が、銀行が破綻すると預金の一部が返還されなくなる(ヘアカット)のではないか、という心配になり破綻前に引き出した。預金保険制度による預金引き出し抑止が機能しなかった、ということになる。
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文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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