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2023.03.29

官民連携のノウハウを生かし起業 神戸市名物課長の視点

イマゴト代表取締役 秋田大介

民間企業から公務員への転職はこのところ広がりつつある。ところが、公務員から民間企業へ転職したり、自ら独立したりするケースはまだまだ珍しい。だがここに、やりたいことが見つかり、子どものときの夢を実現しようと人生の舵を切った人物がいる。

神戸市環境局の課長を務める秋田大介(46歳)、昨年4月から環境局全体の予算や議会との連絡をとりまとめる枢要なポストに抜擢されていた。ところがこの3月27日、神戸市役所を去り、独立。自ら起業を果たした。

話を聞いてみると、少年のときに抱いた夢を追い求める秋田の姿が浮かんできた。

水素循環型社会への興味で神戸市に


秋田は、大阪大学大学院工学研究科で環境・エネルギーを学んだあと、2002年に神戸市役所に就職した。この進路を選んだ理由ははっきりしている。中学2年生のときに読んだ、科学雑誌「ニュートン」での地球環境の特集だ。

「温室効果ガスがこのまま大気中に排出され続ければ、生態系や人類に危険といえる気候変化が生じる」という報告に、彼は「このままでは地球が終わる」と衝撃を受けたという。そして、それを防げるかもしれない未来のテクノロジー、特に水素循環型社会に興味を持つようになった。

そして、当時の神戸市役所に入れば、このような分野に挑戦できるのではないかと感じたという。

神戸市役所に入り、最初に任せられたのは、市街地で道路をどのように整備していくのかを考える仕事だった。ところが、上司には「道路はもういらない」と歯向かった。無知のまま、思いだけで突っ走る職員だった。

転機はちょうど10年前。神戸市の中心部、三宮地区で再整備を進める方針が決まり、その計画づくりを担当することになった。海外の事例を見聞して来るようにと指示を受け、米国のシアトルやポートランドなどに出張した。

日本における街づくりは、官庁が主導すべきだと考えられていた。ところが、米国では住民を巻き込むどころか、住民が主体となって街をどうすべきかを話し合っていたことに、秋田は大きな感銘を受けた。

帰国した彼は、そのやり方を実践した。まず最初に三宮地区の「良いところ、悪いところ」を教えてほしいと住民たちに呼び掛けた。行政がおこなうパブコメ(意見公募)は、あらかたつくってしまった案に対して意見を募るのが一般的だが、案をつくる前のゼロ段階で住民の声を聞こうとするやり方は斬新だった。
神戸の未来のまちづくり300人会議

神戸の未来のまちづくり300人会議


そのあと、小学生から高齢者まで約300人を一堂に集めた意見交換会も開催。三宮の将来にさらに関心を持ってもらおうと、1000組の笑顔動画とメッセージを集める事業も行った。
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文・写真=多名部重則

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