数年前から東京など都市圏で拡大したシェアオフィス。コワーキングスペースと呼ばれることもあるが、デザイナーやIT関係者などのフリーランサーに好まれるだけでなく、そこでの異業種やクリエイターとの「交流」によって新しいビジネスを生み出すことを期待して、大企業が入居している事例も多い。
2021年4月にオープンしたアンカー神戸だが、特徴的なのはほとんどのシェアオフィスにある「個室」がないことだ。
シェアオフィスと言えば、通常は2名から10名くらいの個室がフロアの大きな割合を占める。というのも、業務上のセキュリティが確保でき、作業に没頭できるため、個室には根強いニーズが存在する。さらに、個室の賃料収入がシェアオフィス自体の経営を安定させるからだ。
このように考えると、アンカー神戸はかなり風変わりな施設だといえよう。
求められたのは知的な「交流」拠点
アンカー神戸がこのようなつくりになったのには深い理由がある。構想が始まったのは10年ほど前にさかのぼる。
1995年に起きた阪神・淡路大震災の復興事業として、98年から人工島であるポートアイランドで「神戸医療産業都市」が始動した。ここには理化学研究所などの研究機関や専門性の高い数々の病院、欧州の製薬会社からバイオベンチャーまでが集まり、約1万人が働いていた。10年前、その人たちがスタートアップや既存の産業群で働く人たちとの「交流」を求めはじめたのだ。
前述のようにシェアオフィスのビジネスは、個室の賃料が収益の柱だ。なので、交流を目的としたコミュニティ空間があったとしても、個室への入居者の利便性を考慮した付帯施設という色合いが強くなりがちだ。しかし、収益性に目をつむるのであれば、個室がないほうが、より多くの人が交流できる大きなスペースをつくることができる。