副業でNPO法人を立ち上げ
ちょうどその頃から、秋田に相談を持ちかける住民が増えはじめた。「アート集団を連れてくるので街中に壁画を描きたい」「街のど真ん中で自然と都会を感じるキャンプがしたい」など、そのような新しい動きに神戸市にも寄り添ってほしいという提案だ。
神戸市が2017年に、職員が報酬を得ながら公務以外で働ける「副業」を認める規定をつくると、秋田はすぐさま手をあげた。持ち込まれたさまざまな提案に応えるためだった。
そして秋田は、相談されていた須磨海岸で車いすの障害者でもビーチを楽しめる事業を進めるために、NPO法人を立ち上げて副代表に就任する。
障害者が海水浴利用できるよう神戸市の担当部署と交渉、調整して、須磨海岸自体をバリアフリー化する国際認証「ブルーフラッグ」の取得にも貢献した。さらに、クラウドファンディングで専用の車いすや砂浜を車いすが通れるようにするビーチマットを購入する資金も集めた。
ほかにも、街なかの建物に壁画を描きたいという提案に応えるため、なんと解体前の市役所庁舎の壁面に巨大なアートを描いて、その歴史的建物の最後を飾った。
このように秋田はいつしか官民の垣根を乗り越えていく公務員として新聞やテレビでも取り上げられるようになり、「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード」の2019年度の受賞者にも選出されている。
官民連携のコツについて、秋田は次のように語る。
「民間から市役所に事業連携の相談をするときに、誰もが担当部署を探しがちですが、そうではなく、相談に向き合ってくれる職員を見つけるのが正解です。そういう人は少数ではあるのですが(笑)。
あとは、他の部署や別の企業とも組めるように企画を柔軟に変えられる段階で話を持ちかけたほうがいいと思います。多くの部署のなかで、どの切り口で話をすれば進められるのか、選択肢が広がるからです」
この話には、これまでの彼の市役所での経験が凝縮されているように感じられた。