ビジネス

2023.03.29 08:40

官民連携のノウハウを生かし起業 神戸市名物課長の視点

森林保全のビジネスモデルを


秋田は、2021年の人事異動で、念願だった神戸市の水素事業を担当することになる。ところが、やりたかったゼロからのスタートではなかったため、自分の出番ではないと感じたという。

当時、秋田の上司であった神戸市道路公社理事長(前神戸市役所建設局長)の三島功裕は、彼のことを次のように振り返る。

「三宮の計画のときに住民などの意見を聴く新しい方法を提案した彼の察知能力にまず驚きました。私自身は彼を優秀な職員であると認めていたので、枠にはめずに自由にやらせてみました。

ただ、公務員という狭い枠の中で、今後、彼の才能をどう活かし、どのように成長させていくべきなのだろうということで悩んでいました。退職の意向を聞いたときは、彼にとってはそのほうがよいと感じました」

将来は「持続可能な水素循環型社会の構築」に役立ちたいという秋田だが、原点にあるのは前述のように中学2年生のときに抱いた思いだ。

その思いから、いま彼が解決すべき課題として捉えているのは、国内で森林保全ができていないことだ。小規模な私有林が多く、管理もできていない。そこで、林業とは異なる別のビジネスモデルをつくり、森林の持つ公益的な機能を貨幣価値に代えたいと考えている。

十分に利用されていない山が、水を貯え、CO2を吸収する。防災や生物保全、文化機能などの価値が評価され、有効活用される仕組みがつくれるはずだと意気込んでいる。

その彼の夢を叶えるために、これまで地方自治体の職員として官民連携のノウハウを蓄積してきたのかもしれない。獅子奮迅の「実戦」から得られた秋田のノウハウは確かなものにちがいない。

今後、民間から行政への依頼、例えば、道路や公園のような公共空間を有効利用したいという要請は、ますます増大していくであろう。すでにいくつかのそのような話が彼には舞い込んできていて、起業後の仕事という点でも心配はなさそうだ。秋田の新たな活躍を再び報告できる日が待ち遠しい。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文・写真=多名部重則

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