政治

2023.03.11 18:00

チャンスはピンチも内包する

川村雄介の飛耳長目

日本の戦後の産業界にも、危機を先読みしながら業態変革を成し遂げ、再度の成長軌道に乗った企業は少なくない。繊維会社から総合化学企業へ、フィルム会社からデジタル企業へ、カメラ会社から事務機器・医療・半導体企業へと、各社なりに成長パラダイムをシフトさせて、グローバルに成功を収めている一連の企業群だ。
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個人レベルでも成功者といわれる人々の多くは、危機をチャンスに変えている。立志伝や成功譚は、彼らの人生のピンチなしには成り立たない。

ここで留意したいことは、チャンスはピンチでもある点だ。

特に成長の原動力とされるイノベーションは、既存の枠組みで生きている人々や企業にとって、とんでもない危機になるという事実である。歴史的には19世紀英国のラッダイト運動やスイング・ライオット運動が知られている。産業革命の進展で職を奪われた農民や職工が起こした機械打ち壊し運動だ。これらの運動の数十年後、米国では、laborsaving invention(LSI=労働省力化を実現する発明)が不況を招くとして広く社会問題化した。日本でも、1960年代には、LSIが雇用を奪うとして、労働ストライキが頻発したものである。
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昨今はDXやAIが喧伝されているが、こうしたイノベーションが半面で危機の発生源になることも肝に銘じておきたい。スタートアップのキーワードはイノベーションである。したがって、スタートアップが興隆すればするほど、既存企業は危機に陥ることになる。そうなると「激変緩和措置」として国が支援補助策を講じることになるのだろうか。しかし、いまや国家財政に余裕はない。企業は自らを助けていかなければならない時代だ。

要するに、企業にとっては、危機も機会もそれぞれピンチとチャンスの二面性をもつ。この相反するふたつの顔をいかにうまく活用できるか、が成長の決め手になる。

先の委員会で、件の女性経営者が喝破した。「中小企業には平時なんかありません。毎日毎日が危機なんです。それを真正面に受け止めていく会社だけが残れるんです」彼女の表情に「常在戦場」を感じたものである。まさにピンチはチャンス、チャンスはピンチだ、と訴えたかったのだろう。


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。

文=川村雄介

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