例えば、2月7日(日本時間8日)、NBAの通算最多得点記録を更新したロサンゼルス・レイカーズのレブロン・ジェームズは年俸だけで単年55億円以上を稼ぎ出し、リーグで活躍する多くのスターも、それに準じる収入を得ている。
それだけの収入があれば、なんでも好きなことはできるだろうし、さぞかしリッチな生活で裕福で幸せなのだろう……そう考えてしまいがちだ。だが、実態は必ずしも想像の通りではないと、シルバーNBAコミッショナーの発言により気付かされた。
バスケ、サッカー、テニス。国際的なスポーツの現場では、選手たちのメンタルヘルス危機にどのような対応がとられているのだろうか。
「選手の心を守る」コミッショナーの宣言
2019年2月、マサチューセッツ州ボストンで行われたMIT Sloan Sports Analytics Conference(MIT SSAC)にて登壇したシルバーNBAコミッショナーは、イベントの性質上、当然最新テクノロジーを駆使したNBAのソリューションについて語るものと思われたが、訥々と、しかし力強く語ったのは、選手のメンタルヘルスについてだった。コミッショナーによると、その立場だけにNBAのメジャー・スターたちとはつながっており、選手たちと直接、頻繁にやり取りをするという。しかし、こうした年に何十億円も稼ぐようなスターでさえ、「辛い、孤独だ、不幸だ」と感じることは少なくないそうだ。
その根源となるのは、TwitterなどSNSで頻繁に投稿される罵詈雑言や差別。最新テクノロジーについての発表の場である「MIT SSAC」において、同コミッショナーが選手のメンタリティ問題をクローズアップするとは、これがいかに喫緊の課題かうかがい知れた。
テニス界のメンタルヘルス事例
アスリートのメンタルヘルスをめぐっては21年5月、テニスの大坂なおみが全仏オープンで「選手たちのメンタルヘルスが無視されている」と発言。長く鬱に苦しんでいる事実を吐露し、波紋を呼んだ。そもそも大会の記者会見をボイコットしたことにより、女子テニス協会(WTA)は大坂のグランドスラム出場権剥奪の強権を発動しようとして、プレーヤーのみならず、世界中のファンからも反感を買った。しかし、大坂のスポンサーは彼女の言動に理解を示し、引退の危機とまでささやかれたにもかかわらず、一社も降板することなく、サポートを続けている。
テニス界においてはウインブルドン5連覇を果たしたスウェーデンのレジェンド、ビヨン・ボルグが1983年、26歳で電撃引退。メンタルに起因する燃え尽き症候群とされる。さらにボルグは引退後、自殺未遂を起こすなど社会復帰までに時間を要したとうかがい知れる。WTAの大坂への対応を眺めると、テニス界はこのボルグ事件から何も学ばなかったようだ。