ほとんどの霊長類が観察した行動に基づいて他者の意図をある程度理解していることが、過去の研究で明らかにされている。犬にもこの能力があるかどうかはまだ議論が交わされている。
犬は数千年前から人間の仲間だが、現在も、犬がどこまで人間の意図を理解しているかを私たちは知らない。犬が飼い主のボディランゲージや動き、合図、イントネーション、表情などを注意深く観察していることはわかっており、犬の認識能力が人間社会の中での生活に順応していることを示す証拠もある(参照)。たとえば、犬は人間の指差すジェスチャーを理解するが、霊長類の場合、チンパンジーでさえも、それを理解していない。しかし過去の研究によると、人間以外の霊長類のほとんどが、与えられた仕事を実行する能力のない人間と、実行する意志のない人間を区別できるという(参照)。犬にもこの認識能力があるのだろうか?
ウィーン獣医学大学で人間や他の動物の問題解決方法を学んでいる博士研究員であるクリストフ・フェルターは、ある研究者チームと協力して、ペットの犬が見知らぬ人間の意図的行動と偶発的行動を見分けられるかどうかを調べた。フェルター博士らは、小さなケースを用意して、3面を網に、1面をドリルで穴をあけた透明なプラスチックパネルにした。このケージはほかに何もない部屋に置かれ、被験者である犬の前に置かれたケージに、面識のない研究者1名が座った。
「unwilling-or-unable(意志のない・あるいは・能力がない)」パラダイムと呼ばれるこの実験は実に単純だ。実験者はおいしそうなソーセージの薄切りを1枚、透明パネルの穴を通じて犬に与える。犬が意図を理解したかどうかをテストするために、実験者は時々、餌を与えるふりをするだけで与えない(「意志のない・からかい」テスト)。あるいは、実験者はソーセージを、犬の手の届かないパネルの手前側に偶然落としたふりをする(「不能・不器用」テスト)。どちらの状況でも犬は餌にありつけないが、理由は異なる。