政治

2023.01.24

中学生が手嶋龍一氏と、ウクライナ情勢そして「インテリジェンスの戦争」を考えた

東京都渋谷教育学園渋谷中学校の青井順生さん、伊藤澄佳さん、江見理彩さん、柴諒一郎さん、釈迦戸都さん、山澤綾乃さん(名前は五十音順)。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と

たとえば江見さんが、併合されたルガンスク州に住んでいるとしましょう。卒業の年齢に達していれば、ロシア軍に徴兵される可能性があります。そうなれば、満足な装備も与えられず、訓練も不十分なまま最前線に送られてしまう。そのため、ロシア領内では暴動や抵抗も起きています。

ヘルソン州にたまたま住んでいた釈迦戸さんも、山澤さんも徴兵されてしまう。実戦の経験もないまま戦闘地域に連れていかれる。その衝撃、悲惨さは、他の戦争に比べてもたとえようがありません。さて、何故だと思いますか?

──(山澤)もしかすると、つい昨日まで一緒に学んでいた友だちに銃口を向けなければならなくなるかもしれないんですね。

その通りです。ついこの間まで、同じスーパーで買い物をしていたり、同じスポーツクラブのメンバーだったりした人に銃口を向けることになるかもしれない。友人が敵と味方に引き裂かれる。山澤さんは、同じ学校に通っていたクラスメートの青井さんと戦わなければいけなくなる。

僕は湾岸戦争をはじめ多くの戦争を取材し、最前線にも赴いたことがありますが、内戦でないのに、これほど悲惨な戦争は知りません。こうした現実はどれほど悲惨か、皆さんも我が事として考えてみてください。

大動脈「クリミア大橋爆破」は大きな転換点

10月8日には、ウクライナ側が「クリミア大橋」を爆破しました。この「クリミア大橋」は、2014年にロシアが強制的に併合したクリミア半島とロシア全土を結ぶ全長19キロにおよぶ大動脈なのです。


爆撃されたクリミア大橋

このクリミア半島は、近代史を画する重要な戦略拠点となってきました。19世紀の後半に入ると、帝政ロシアは南下政策をとり、イギリス、フランス、オスマン帝国と戦って敗れています。

ウクライナが旧ソ連邦から独立を果たした際、ソ連時代にウクライナ共和国に属していたクリミア半島はそのままウクライナ領となりました。しかし、プーチン大統領は2014年、セヴァストーポリ軍港という要衝もあるクリミア半島を武力で奪い取りました。

そして2018年、プーチン大統領はロシアとクリミアに大きな橋を架けたのです。上は鉄道、下は道路になっています。2018年の落成にあたっては、プーチン大統領が自分で大型トラックを運転し横断してみせました。ロシアにとってそれほど重要な動脈であることを、内外に誇示してみせたのです。

クリミア半島はウクライナからは地続きですが、ロシアとはアゾフ海と黒海で隔てられている。クリミア大橋は、ロシア本土からウクライナの戦場に物資や兵士を送りこむ大切な輸送路であることが地図を見ればわかるでしょう。その重要施設が爆破された。プーチン大統領は直ちに報復を命じて、ウクライナ全土の発電施設などを標的に巡航ミサイルを撃ち込みました。


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編集=石井節子 撮影=曽川拓哉

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