政治

2023.01.24

中学生が手嶋龍一氏と、ウクライナ情勢そして「インテリジェンスの戦争」を考えた

東京都渋谷教育学園渋谷中学校の青井順生さん、伊藤澄佳さん、江見理彩さん、柴諒一郎さん、釈迦戸都さん、山澤綾乃さん(名前は五十音順)。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と

──(柴)その「あらゆる手段」というのは、核兵器のことなんですね。

そう受け取るべきでしょう。アメリカ大統領が「あらゆる手段を排除しない」と発言すれば、それは、外交上の用語では、武力の発動を意味します。プーチン大統領は、武力行使のなかでもさらに一歩踏み込んで“原子の力”を示唆していると受け取っていいでしょう。

僕は冷戦が終わってソ連が崩壊した後の1990年代半ば、NHKのドイツ特派員としてドイツの暫定首都だったボンに駐在していました。そこから、旧ソ連の核兵器、ミサイル、宇宙産業の製造、配備の一大基地だったウクライナから、アメリカなど西側各国がロシアと協力して核兵器を撤去する一大プロジェクトを実施する様子を見ていました。



当時の日本ではあまり切実に受け取られていなかったのですが、当時の西側陣営は旧ソ連から分離・独立を果たしたウクライナに核やミサイルを残しておくのは危険だと考え、ウクライナから核関連施設の撤去を進めていました。アメリカや日本が資金を出し、ロシアとも協力して核の撤去を進めたのでした。まるでトゲを1本、1本抜くように、ウクライナから核ミサイルを取り除いていきました。僕はドイツ特派員としてその様子をながめ、後に現地にも赴いたのでした。

その意味では、僕はささやかな“歴史の証人”のひとりだったのです。そして、ああ、米ロの核戦争の危機は遠景に遠ざかっていく、と愚かにも思っていたのです。しかしながら、いま“プーチンの戦争”をこうして目の当たりにして、核戦争の危機は去ってなどいない、われわれはいまなお核の時代の真っただ中にいると認めざるを得ないのです。

「僕らは核の時代に生きている」

青井さん、江見さん、柴さん、伊藤さん、釈迦戸さん、山澤さん、皆さんのなかで、プーチン大統領は(写真を指差しながら)絶対に核戦争のボタンを押さない、と言い切れる人はいますか?

──……(全員、沈黙)。

そう、僕らはいま、核戦争の危機が依然としてある“核の時代”のただなかに生きていると認めざるをえないのです。大きな災厄、戦争に備える心構えとして言い伝えられている格言があります。それは、「想定すらできない事態をこそ想定し、それに備えておけ」、”Think the unthinkable.”です。

まさに僕らはいま、核戦争という「想定すらできない事態」に備えておくことを迫られています。

中編、後編ではヒロシマ、ナガサキ以来、人類が初めて核戦争の深淵を覗き見た、1962年10月の「キューバ危機」を体験してみることで、核の時代とはいかなるものか、「核の抑止」と言われているものの本質とは何かを共に考えてみたいと思います。


武漢コンフィデンシャル』(2022年、小学館刊)

手嶋龍一(てしま・りゅういち)◎作家・外交ジャーナリスト。NHKワシントン支局長として9・11同時多発テロに遭遇し、11日間の連続中継を担当。NHKから独立後に発表した『ウルトラ・ダラー』、続編の『スギハラ・ダラー』がベストセラーに。同シリーズ・スピンオフに『鳴かずのカッコウ』、最新刊は『武漢コンフィデンシャル』。ノンフィクション作品も『汝の名はスパイ、裏切り者あるいは詐欺師』『ブラック・スワン降臨』など多数。

編集=石井節子 撮影=曽川拓哉

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