政治

2023.01.24

中学生が手嶋龍一氏と、ウクライナ情勢そして「インテリジェンスの戦争」を考えた

東京都渋谷教育学園渋谷中学校の青井順生さん、伊藤澄佳さん、江見理彩さん、柴諒一郎さん、釈迦戸都さん、山澤綾乃さん(名前は五十音順)。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と

「神の火」が始めて使われた国、日本

ここで、20世紀以降の戦争の特徴について、青井さんや柴さんたちと一緒に考えていきましょう。後半で核戦争や核戦略を考えるための準備になります。

ナチス・ドイツの迫害を逃れてアメリカに渡ったユダヤ人の核物理学者が中心になって、プルトニウムやウランを濃縮して原子爆弾を造る「マンハッタン計画」が進められました。アメリカをはじめとする連合国は、ヒトラーが核爆弾を製造しているのではないかと心配し、それに先駆けて原子力爆弾を開発しようとしたのでした。そして第二次世界大戦が終わる直前に核実験を成功させ、ヒロシマ、ナガサキの上空で炸裂させ、その威力を世界に示したのです。これは現代の戦争の決定的な転換点となりました。



原子爆弾は夥しい数の人々を瞬時に殺してしまう威力を秘めています。アメリカが、ヒロシマ、ナガサキにそんな大量殺戮兵器を落としたのは、第二次世界大戦を一刻も早く終わらせて、頑強に抵抗する日本に降伏させるため──それが大義名分でした。しかし、実際には、アメリカのトルーマン政権は、やがて冷戦の主敵として立ち現れるソ連に核の威力を示す機会としてどうしても実戦に使いたかったともいわれています。

ヒロシマ、ナガサキの惨劇を機に、「神の火」と形容される原子エネルギーは、究極の兵器として人類の手に委ねられることになりました。戦争の風景は、ここで決定的に変わってしまったと言っていいでしょう。釈迦戸さんや伊藤さんは、そんな“核の時代”のただなかに生きているのです。目の前で繰り広げられている出来事の本質を見抜く知性、そして感性を磨かなければ、皆さんの時代である“21世紀のいま”は見えてきません。

チェルノブイリ原発事故でプーチンが見た「未来予想図」

ウクライナはかつて、かつてはソビエト連邦の共和国のひとつ、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国でした。そのウクライナの街チェルノブイリに原子力発電所があったのですが、そこで大惨事が起きました。ベルリンの壁が崩れる3年前の1986年のことでした。欧州の広い範囲が放射能で汚染されました。

その頃プーチン大統領は、KGBという情報機関の情報士官として、東西に分かれていた「東ドイツ」の都市、ドレスデンに駐在していました。そして、このチェルノブイリ原発事故を目撃していたのです。

プーチンという人物は、その鋭い洞察力でこの大事故の本質を見抜いていたと思います。この事故がその後の世界、とりわけ自身の祖国であるロシアの運命に大きな影響を与えたと受け止めたと思います。さあ、釈迦戸さん、山澤さん、プーチンはこの事故からどんなことを読み取ったと思いますか?
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編集=石井節子 撮影=曽川拓哉

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