政治

2023.01.24

中学生が手嶋龍一氏と、ウクライナ情勢そして「インテリジェンスの戦争」を考えた

東京都渋谷教育学園渋谷中学校の青井順生さん、伊藤澄佳さん、江見理彩さん、柴諒一郎さん、釈迦戸都さん、山澤綾乃さん(名前は五十音順)。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と

──(釈迦戸、山澤)原子力を軍事利用すれば大変なことになるのではないか、と気づいた?

原子力の軍事利用は開発の初めから考えられていたので、そうではありません。

──(釈迦戸、青井)社会主義世界に何か大きな変化が起きること、ですか?

そう、なかなか鋭い。社会主義という体制に変化が起きる兆しをこの事故から読み取ったのだと思います。スターリン以来の強権国家、ソビエト連邦は「原子の火」である原子炉を統御できなかったため、崩壊に向かうことになる、そんな暗い予見を抱いたと言われています。そして、その後の展開は、まさしくその通りになっていきます。チェルノブイリ原発の事故は、単なる原発事故の域を超えて、祖国の政治体制に言い知れぬインパクトを与え、その後の国際社会の風景を塗り替えていったのです。

当時のソ連の強権体制を率いていた政治指導部、クレムリンは、あらゆる手立てを尽くしてこの原発事故を制御しようと試みたが、できなかった。プーチンは、これによってロシア革命以来続いていたソビエト連邦という支配システムが、“原子の火“をコントロールできないと分かった。ソビエト連邦が音を立てて崩れ去っていく出発点と悟ったのでした。このチェルノブイリ原発事故がどれほどプーチンにとって重要な意味をもっているか、今度の”プーチンの戦争“にもくっきりと表れています。

「あらゆる手段」の最たるもの──

プーチン大統領は2月24日に、対ウクライナ国境を越えた侵攻を軍に命じましたが、その時に、まずチェルノブイリ原発を制圧、続いてはウクライナ中南部のサポリージャ原発、さらには南ウクライナ原発をつぎつぎに制圧していきました。まさにプーチンという人は、「神の火」を手中に収めていったのです。

──(江見)原子力発電所を占領することでウクライナやアメリカなどにロシアの力を示そうとしたのですか?



そう、分かりやすくいえば、核兵器のボタンに手をかけるように、原発を手中にしてNATO(北大西洋条約機構)にロシアの力を誇示した。核爆弾が命中するのも、原発の炉心が溶けて放射能が漏れだすのも、原子力の惨劇であることにおいて本質は変わりませんから。巡航ミサイルをチェルノブイリ原発やサポリージャ原発の炉心に撃ち込んで、核爆発が起きる事態を想像してみてください。核弾頭を装備した中距離、長距離核ミサイルが爆発するのと変わらないでしょう。プーチン大統領は暗に“そうした事態を想定しろ”と西側に言っているのでしょう。

現にプーチンは9月21日に「わが領土の保全が脅かされるなら、あらゆる手段を駆使する。これは脅しではない」と言っています。
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編集=石井節子 撮影=曽川拓哉

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