「両親の同時入院」という大事件 危機への対処法 #人工呼吸のセラピスト

連載「人工呼吸のセラピスト」


Sさんは押富さんが生まれる前から家族づきあいがあり、たつ江さん不在の17日間の半分以上を寝泊まりしてくれたが、最初の3日間は全然眠れなかったという。「人工呼吸器のアラームが鳴れば気になるし、鳴らなければそれも気になるし」と笑うSさんに心から申し訳なく思ったという。

「インフォーマルな支援」は最終手段


友人・知人らの「インフォーマルな支援」は、障害者が地域生活を送るために絶対に必要なものだけど、それをあてにした福祉サービスであってはいけない。そう考えた押富さんは、福祉行政や介護事業の関係者に向けて次のように思いをブログでつづった。


フォーマルな支援をする側の人に知っていてほしいと思う。

インフォーマルな支援は、最終手段だと思っていること。
福祉サービスでどうにもならないときにしたいって思っていること。
たとえ親しい関係であっても、頼めないことはたくさんあるってこと。

親しい友人に
着替えをお願いできますか?
オムツ交換をお願いできますか?
夜中、何度も起こせますか?

たとえ、一緒に温泉に入るような仲であっても、私はそこまで頼めません。
親しいからこそ、お願いできないことだってあるんです。
友だちじゃないからこそ、委ねることができることもあるのです。
福祉サービスと友人・知人の協力、きちんと使い分けをしたいって思う。

(中略)

今回の出来事は、友人や知人が本当に助けてくれた。
こんなにも快く手助けしてくれると思っていなかったので、本当にうれしかった出来事でもある。
また同じようなことが起こったら、同じように助けを求めると思う。
だけど、何事にも適度ってある。

そんなみんなに助けられながら、この関係も一歩間違えたら......と怖く感じたのも事実です。

インフォーマルな支援、
今後にも関わる大事なことだからこそ、よく考えなきゃいけないなと思いました。


障害者本人に力量があると、助けてくれる人も多い。それはすばらしいことだけど、公的な福祉窓口がそれを当て込んでサービス量を決めてはいけない。何度も当てにされたら、友人にも負担がかかり、信頼関係にひびが入ってしまうかもしれない、という懸念。ボランティア団体などで見られる人間関係のトラブルとも重なる問題で、とても深い指摘だと思う。

その思いに沿って、押富さんは居住する尾張旭市に受給時間の延長を要請した。今後も同様の事態は起こりうるので「ふだんは使わなくても利用時間の備えがほしい」と希望したのだが「前例がない」と退けられた。
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文=安藤明夫

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