見た目もおいしい「嚥下食」を発信 食べる力の驚異的回復 #人工呼吸のセラピスト

連載「人工呼吸のセラピスト」

仕事熱心な作業療法士から、生活のすべてに介助が必要な重度障害者へ。20代後半の押富俊恵さんは、重症筋無力症や肺炎によって人生の希望を奪われ続けた。それでも自分にできることを考え続けていた。

 前回:寝たきり、声が出なくても。「永遠のキャプテン」の仲間愛

この写真は、2011年8月、30歳になった押富さんが自身のアメーバブログ「あおぞら日記」に載せたもの。彼女が考えた嚥下食の一つだが、この料理の正体、お分かりだろうか?

人工呼吸のセラピスト 押富さん考案のチンジャオロースの嚥下食
3つの層が美しい押富さん考案の嚥下食 何だと思いますか
 

「勝手にミシュラン」星5つ こだわりの嚥下食レシピ


答えは、チンジャオロース。

こんな手順で作る。

(1)市販の「チンジャオロースの素」でピーマン、タケノコ、牛肉を炒めた後、種類別に分ける

(2)それぞれに中華スープを加えてミキサーにかけ、ポタージュ状にする

(3)ピーマンを鍋に移してゲル化剤を入れ80℃以上に加熱。プリン型に流し入れる

(4)次にタケノコを同様に加熱して、プリン型のピーマンの上にそっと流し入れる

(5)牛肉も同じ手順で流し入れる

(6)固まったら、お皿に移す

(7)フライパンに残ったタレにとろみをつけ、かける

押富さんは「勝手にミシュラン」と称して、星5つを付けた。

こだわったのは、見た目の美しさと、それぞれの素材の味が分かること。

食べることが大好きな押富さんは、嚥下障害が進んだ2009年ごろから、食べやすい嚥下食をあれこれ考え、レシピを作ってきた。言語聴覚士や栄養士に見せたら「当事者からの情報は少ないし、みんなが知りたいことだからブログに載せるといいよ」とアドバイスされ、発信を始めた。

シリーズに紹介されたのは、月見とろろそば、ロールキャベツ、たこ焼き、ちらしずし、インスタントラーメン、トマトの野菜サラダなど、40数点に及んだ。

レシピを基に料理を担ったのは、主に母たつ江さん。途中からはホームヘルパーさんがランチに作ってくれることも増えた。

今でこそ「おいしい介護食品」が患者の生きる意欲を高めることは常識。農林水産省がそれぞれの人に応じた介護食品の分類を整える「スマイルケア食」を提唱したり、企業もビジュアルな食品の開発を進めたりしているが、当時は一般的ではなかった。

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文=安藤明夫

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