文章やイラストの投稿プラットフォーム「note(ノート)」は、月間アクティブユーザー4066万人を数え、有料購読をするユーザーの月間平均支払額は2650円。年間の流通総額は、84億円を超えている。
note(当時はピースオブケイク)が創業したのは2011年。前年に日経電子版がサービスを開始したばかりで、インターネット上でお金を払って情報を得るという消費行動は浸透していなかった。
10年余りで、新しい当たり前を作ったnoteが12月21日、東証グロース市場に上場した。代表取締役CEOの加藤貞顕(かとう・さだあき)に、
1. 創業まで
2. 創業3年まで
3. IPOまで
この3つの期間におけるターニングポイントとその際の意思決定について聞いた。
ターニングポイント1 「それなら加藤くんがやりなよ」
加藤は長らく「起業なんて考えたこともなかった」そうだ。
「子どもの頃から読書やパソコンが好きで、なるべくなら働きたくないと思っていた」という加藤は、大学院卒業後、好きなものに関われる編集者の道へ進む。
2009年の「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(通称:もしドラ)など、ベストセラーを数々手掛け、ヒット編集者としての地位を確立していった。
2010年は電子書籍元年と呼ばれた。加藤も、編集者として新たな販売手法にチャレンジし、一定の成果を収めたが、壁も感じたという。
「インターネットの時代が来るのは確実でした。しかし、電子版へ移行していくなど、業界に新たなやり方を浸透させていくのは、一社だけでは難しいと思いました」
当時は自分が課題に立ち向かうことになるとは思いもしなかったというが、加藤は、とある人物の一言から起業家の道へと進むことになる。
「表参道の居酒屋で、『起業のエクイティ・ファイナンス』の著者の磯崎哲也さんと、クリエイティブの課題について話をしていたときに、『それなら加藤さんがやればいいじゃないですか』って言われたんです」
思ってもいない選択肢に「資金も、経営の知識もない」と返したが、「資金調達という手段がある」と返され、やらない理由がなくなっていったという。
ただイメージはあった。クリエイティブとテクノロジーを絶妙に組み合わせることだ。
「ネットの浸透とともにウェブメディアが生まれ、クリエイティブの可能性も広がった。ただ、当時マネタイズは広告一辺倒で、課金という選択肢はなかったですね」
自分が切り拓こう。加藤は、新しい仕組みを作るため、2011年にピースオブケイクを設立する。