── 経営者が顧客視点を持っている企業とそうでない企業の差はどこに出るのか。
津下本:いまは事業のつくり方がクイックになっていて、例えば2年同じモデルだと負けるという、いわゆる「進化が前提」となっています。株主で社外取締役の西口(一希)さんもよく話題にされていますが、経営が顧客から離れていくと、ビジネスにズレが生じる可能性がとても高くなります。
経営を持続的にするのであれば、顧客に対する解像度を高く、常にアップデートしていくということが必要です。僕自身も、マーケティング学習アプリでSaaSビジネスをしているなかで、実感していますが、そうした意識は社会認識として強まっていると感じますね。
「相関関係」よりも「因果関係」を
小林:そもそも、「会社経営は、マーケティングとイコール」です。そして、マーケティングは何から始まるかというと、どう考えても「ご購入いただく人」です。限られた時間とお金を割いて、企業やブランドに投資してくださる人から始める以外に何があるか、と。ただ、会社にいると、膨大なデータがあるので、それらを眺めながら、ここをもっとこうしたい、ああしたいとなってしまうので、顧客視点をあらためて意識しないといけない部分はありますね。
顧客視点という観点で、僕がオルビスで行った施策は、「お客さまイベント」です。顧客の購買データやデモグラフィックデータは存在し、コールセンターから上がってくる声もあるのですが、それを見ながら思ったのは、「お客様に直接話を聞いた方がいい」ということ。経営陣が直接思いを語り、お客様からフィードバックをもらうということをしていました。
東京・表参道の体験特化型施設「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」で開催していたイベントも、コロナ禍でオンライン開催することになり、全国、海外のお客さまにも参加してもらえるようになった。このお客さまイベントはとても大事にしています。
これから意識しなければいけないと思っているのは、「相関関係ではなく、因果関係を見ること」です。データが膨大にあるため、悪く言えば「マーケッターは数字で遊んでいる」とも言えます。ただ、数字は相関関係を見るためのものです。
例えば、僕はいま、G-SHOCKをしています。このG-SHOCKは40代の経営者によく売れていると言われていますが、僕は40代の経営者層だからこのG-SHOCKを買ったわけではありません。自分のなかで、かっこいいとか、こういうファッションがいいとか、僕にとってのベネフィットがあるから買ったわけです。
この因果関係は、相関関係をいくら追い求めてもわからない。数字だけしか見ていないと、この時期に、この人にこの施策をすると売れるからと、過去を振り返って動きますが、この人の何を解決して買ってもらえたのか、わからないから、どんどんずれていく。ですから、因果関係を考えるという意識と議論を徹底していく。我々が顧客の生活の中心にあるアプリをコアにしているのはその理由です。
津下本:面白いですね。
小林:自分も一生活者なので、考えてみればそうなんですよ。40代の経営者に売れていると聞いても、40代の経営者だから買ったわけではない(笑)。魅力やベネフィットを感じたからなわけで、それがなにかという話です。