津下本:僕らのサービスを導入してくれた企業の中には、数百人規模のデータサイエンティストのチームでマーケティングを学んでいる例もあります。そのチームでは『イシューからはじめよ』ではないですが、数字から結論を見出すのではなく、人間のインサイトなどの仮説が先で、それをデータなどのファクトで検証していくのにマーケティング思考が必要、という考え方です。
この関係性が逆さになると、ピントが外れた相関関係を出してしまうことにつながるので。僕らがプロダクトを立ち上げた時から、「マーケティングを一般素養に」という思いがあるので、データサイエンティスト組織に、マーケティングを体系的に学ぶという判断をしていただいたことは、僕らにとっては象徴的な出来事でした。
また、僕らのアプリでマーケティングをインストールしてもらうと会社が明るくなる効果があるのではないかと信じています。なぜなら、マーケティングは、プロダクトやサービスの売れ行きだけを考えるわけではありません。ブランドが提供できる価値は何かを問うことや、顧客接点とコミュニケーションを考えることです。
そして、ほとんどのプロダクトやサービスは生活を豊かにして、誰かのペインを解決することをゴールにしている。そのゴールが実現できれば、多くの人の生活が豊かになり、ペインが解決されることにつながります。だからこそ、僕は、マーケティングには会社や社会を明るくする可能性があると思っています。ですが、いまは組織やビジネスが複雑化して、一番大事な顧客とのタッチポイントに温もりを失っていることが多いように思います。
私が受注目標を設定しない理由
── 小林社長の独自の勝ちパターンは。
小林:勝ちパターンがあれば僕が知りたいくらいです(笑)。ただ、一番深掘るべき本質だと思っているのは、「『なぜ、人がそれを購入されたのか』という因果関係を考え抜く、突き詰めていく」ということです。データを見て「こうしたらレスポンスが上がる」とか相関関係を徹底的に極めていき、人間ではなく「数字が動く」という感覚になるというのは落とし穴だと思っていますね。
それはなぜかというと、僕らのビジネスはダイレクトセリングで、お客さまが会員登録してくれて、年齢、性別、お住まいというデモグラフィックは全部わかる。かつ、いつ、何をどのような手段でご購入いただいているのかも、わかる。だから、グラフィックと購買データを見続けると、相関関係を極めることはできます。
ただ、アプリをはじめてわかったことは2つあります。お客さまが購入以外で自分からどういう時にアクションするかという「購買以外のデータ」が取れた。そして「アプリ内でどの記事を読んでいるか」がわかるようになりました。どういうものに興味を持っているか、趣味趣向やパーソナリティなどがわかるので、因果関係を導きやすい。
そして、購買以外のアクションが多い人ほど、LTVが高くなります。ブランドとお客さまのエンゲージメントに求められていることは、当たり前ですが「これを買ってください」というお薦めではありません。ただ、購買データとデモグラフィックだけの相関関係だけでは「どうか買ってください」になってしまいます。
一方で、アプリを作ることだけが勝ち筋だと言いたいわけでもありません。しかしながら、お客さまの購買の因果関係を見ることができ、購買以外でもお客様と日常的に高い頻度でつながれる方が絶対に強い。そして、結果的にLTVが高くなる。だから、我々はあくまで手段としてアプリをコアにしているだけです。そうでない手段もたくさんあると思います。