── なぜ、会社全体を変革できたのでしょうか。
小林:オルビス自体の価値は、手前味噌ですが、非常に素晴らしいと思っていました。僕はポーラ・オルビスグループのプロパー社員だからわかりますが、オルビスの1000円台、2000円台の商品は、ポーラの2万円の商品と同じくらいの工数をかけて作っています。
コールセンターの対応も、顧客満足度調査(JCSI)で1位を獲得するなど評価が高い。このようなブランド体験を作れているところは他にはありませんから、ブランド価値をしっかり伝えて、LTVでお客様と深く付き合っていくことを「しなければ」というよりも「絶対にできるのだから、するべきだ」という思いがありました。本質的な価値は高いのに、カタログ通販のキャンペーンドリブンな戦術を行っており、時代の変化に対応できていないだけだと。
もうひとつの理由は、「ベンチャーの経営スタイル」のテンションで突き進んだのが良くも悪くもハマったのかもしれませんね(笑)。
津下本:驚いた社員も多かったと思いますよ。
小林:やばい奴がきたなと(笑)。
津下本:とはいえ、マーケティング業界では、小林さんがいまおっしゃっていた「顧客視点」に切り替えるというのは生命線になっています。LTVで考えて、顧客にいい体験をしてもらい、それを伝えてもらうというのが主戦場になってきている。
オンライン広告が飽和し、獲得効率が明らかに落ちてきていることや、「モノ」から「コト」へという世の中の文脈を考えても、顧客への関与を深くし、どんな価値を届け、そのための顧客体験を設計していくことがマーケティングの仕事になってきている。
最近、お客さまやマーケティング業界の人と盛り上がるのが「マーケティングという職種がなくなるのではないか」という議論です。プロモーション、プロダクト、プライス、プレイスという4Pに、顧客を中心に置く図を描くのがマーケティングの仕事の本質であるならば、ビジネスそのものではないか、と。
各社のCMO(最高マーケティング責任者)も、小手先で売ろうではなく、商品開発から関わるのが当たり前になってきている。さらに、データの力によって、アダプティブにパーソナライズされたサービス体験が可能になり、顧客体験のデザインも変化の過程にあるため、顧客と商品との循環を見ることができないと勝てません。
小林:マーケティングという職種がなくなるのではないか、という話は、本質的な話です。僕がコーポレートロゴを変えたのは表側の話で、森岡毅さん(刀・CEO)の書籍のタイトルではないですが「マーケティングは組織革命」。僕は、マーケティング部という部署が存在している会社はもうダメだと思っていますから。
会社は、顧客がいないとビジネスにはならないわけです。特に、僕らみたいな、消費者が対象である事業であれば、会社そのものがマーケティングをやらなければいけない。マーケティングはマーケティング部門がやるのではなく、経営そのものだと思っていますから。マーケティング部があることはものすごく違和感があります。
津下本:広告だけで勝つというのが難しくなってきていますね。一般的に、どの商品カテゴリーもオンライン中心にCPA(新規顧客の獲得単価)は高騰しています。連動して回収に必要なLTVが当然高くなるので、シビアになってきているところがある。それに加え、本格的にソーシャルメディアが浸透し、評判情報が透明化していることもあり、マーケティング部を置かないという会社の話を聞くようになり始めました。