性別や学歴のフィルターを外した人材確保で生まれるイノベーション
小林:ここからは、参加者からの質問をピックアップしていきます。日本の多くは中小企業です。でも中小企業には、両立支援制度を整える人材も資金力もないと感じます。リモートワークも進んでおらず、女性が活躍できる環境が整っていると思えません。中小企業が抱える課題については、どうお考えでしょうか。
浜田:私は中小企業の取材もしているんですが、大企業より中小企業のほうが、経営層が危機感を持って変革に乗り出せば、変化は速いです。
たとえば、仙台銀行は、東日本大震災で融資先が壊滅的な被害を受け、業績が悪化した。頭取の鈴木(隆)さんは、これまでと同じやり方ではダメだと、男性が外回り営業をして女性が内勤で事務を担当するという性別役割分業を崩して、女性にも営業に出てもらうようにしたんです。
その結果、男性よりも女性のほうが業績がよかった。今の時代、プッシュ型営業よりも、相手が何に困っているのかを聞き出して寄り添う共感型営業が求められているんだと、鈴木さんは感嘆していました。
もう一つ、愛知県瀬戸市にある大橋運輸も危機感から変革を起こしています。物流業界は1990年代の規制緩和により他業種からの参入が増え競争が激化して、廃業も増えた。危機感を持った社長の鍋嶋(洋行)さんは人材の確保を意識して、女性を積極的に採用して安全管理業務にも従事してもらうようにしたんです。結果、丁寧な安全管理で事故率が低下。今では女性管理職も増え、もともと法人運輸が中心だったところから、個人の引っ越しや生前整理・遺品整理にも参入しています。
両社とも、資金力があるからではなく危機感から、仕事内容や、採用・昇進の段階での男女比率を変えている。その意味では、中小企業においても、経営層の危機感と変革意識に基づく決断が重要だと考えています。
小林:続いては、学歴フィルターについて。中卒や高卒でも輝く力を持った人がいる中、学歴がないとやりたい職種のスタートラインにも立てない現状があります。こうした現状を変えていくために、どうすればいいと思われますか?
浜田:採用の際、性別や学歴を書く欄を履歴書からなくしたらいいんじゃないでしょうか。ユニリーバは、採用試験で提出する履歴書から、顔写真、ファーストネーム、性別の欄をなくしています。日本IBMは「学歴不問」と言い出していますし、欧米では学歴フィルターは差別だと捉えられます。属性や学歴で判断していては、本当にいい人材を確保できない。先進的な企業ほど、そのことに気づき始めているように感じます。
それぞれの場所でチャンスを掴み、一歩を重ねていく
小林:次の質問です。地方から都市へ、女性の人材が流出したまま戻ってこないことについて、何か対策はあるでしょうか。
浜田:女性が都市に出て戻らないのは、やはり地方のほうが性別役割分業が根強いからですよね。いまだに女性にお茶汲みをさせている企業もあるし、地域の自治体役員も男性ばっかり。地方の女性雇用問題に取り組む私の友人は、経営者を集めて意識改革を地道にやっています。その中でも、危機感のある2代目、3代目の若い経営者たちから、変わってきています。女性に魅力的な地域、会社と思ってもらえるように、これまでのやり方、意識を変えていかないといけないと思います。