キャリア・教育

2022.12.04 18:00

ジェンダーギャップのある社会で、「こうあるべき」に縛られない選択をするために丨ジャーナリスト 浜田敬子


浜田:まさに、女性がキャリアロスをしてきたのと同時に、男性は育児の機会ロスをしてきたんですよね。会社の辞令一つで家族が離れて暮らす単身赴任は、日本企業では当たり前ですが、世界的に見たら珍しい。ただここでもコロナ禍による変化があって、たとえばNTTは2022年7月から、グループ社員19万人中3万人を対象に、リモートワークをベースに、日本全国居住地は自由としました。結果、転勤や単身赴任は徐々になくなっていくと思います。

日本は深刻な少子化で人口減少により働き手が減っていく中、企業の課題は人材を確保すること。危機感を持った先進的な企業は、働く人たちといかに対等な関係を築き、選ばれる企業になるかに力を注いでいます。そのため、個人が働きやすく結果が出しやすい、より柔軟な働き方が受け入れられるようになってきているんですね。

また、ポーラは「男性育休取得100%」を目指すと宣言しています。取締役会で議論をしていたとき、男性役員から「育休を取りたくない人もいるだろうから、自由でいいんじゃないか」と意見があったそうですが、別の男性役員が「いや、必ず取ってもらいましょう」と言ったそうなんです。「組織の中の多様性も大事だけれど、一人の人間の中に多様性があることが大事だから」と。



仕事と家庭だけでなく、地域社会などさまざまな環境に身を置くことで、一人の人間の中に多様性が生まれる。生活に根ざした視点を得ることで、より人々に求められる商品やサービスのアイデアが生まれ、仕事にも社会にも還元されていく。だから男性には育休を取って、PTAの会長くらいはやってほしいですね。

「阿吽の呼吸」が通じる場所の外へ出て、カラフルな世界を見る


小林:一人の人間の中にも多様性があって、組織の中でも一人ひとり多様であるはずなんだけど、日本はなぜか肩書きや役職でモノを言う傾向にあるように感じます。多様な視点よりも肩書きや役職が優先され、議論が活性化せず、イノベーションが生まれにくい。個人の中の多様性、そして組織の中の多様性を担保していくために、できることはありますか?

浜田:私個人の経験にはなるんですが、新卒から50歳になるまで朝日新聞社にいたので、どうしても長く一緒にいると、男女問わず同じ価値観になっていくんですよ。その組織が持つカルチャーやしきたりがありますから。

50歳になって、ベンチャー企業に転職しゼロからメディアを立ち上げたとき、それまで関わることのなかった多様な人と一緒に働くようになったんです。伝統的な新聞社出身者だけでなく、テクノロジーメディア、メディア経験のない若い人たちまで。最初は、阿吽の呼吸が通じず、いちいち背景を説明するコミュニケーションコストがかかって面倒だなって思っていたんです。でも途中からものすごく楽しくなった。この視点は私にはないな、私にはこの発想はないな、こういう考え方もあるんだなって。その違いがチームで新しいコンテンツを生む原動力になっていったんですね。

正直、朝日新聞社にいたときは頭の中だけで「ダイバーシティが大事」と考えていました。でも転職して、多様な人たちが集まって多様な発想が生まれる面白さを体感し、腹落ちした。だから、組織にいる個人それぞれが、ダイバーシティを体感することが大事だと思うんです。

長く同じ企業にいる人は自分から居場所を移してみる。転職をしなくても、副業をしたり、地域活動に参加したり、ボランティア活動や趣味のサークル活動でもいいかもしれません。企業では出向や留職もありますよね。とにかく同じ釜の飯を食った人間じゃない人たちとどっぷり関わってみる。

多様性の面倒臭さを超えて面白さを一度体験すると、ホームグラウンドに戻ってきた際に、いかにこれまでモノクロの単一の世界にいたか、目が覚めるような気づきがあると思います。
次ページ > 中小企業のほうが変化は速い

文=徳 瑠里香 イラスト=遠藤光太

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事