ライフスタイル

2022.11.12 13:00

「なぜ生理はタブー視されるのか」 映画監督・朴基浩、ナプキンを装着して生活も

田中友梨

——さまざまな立場や意見の人がいる中で、今回の映画含め、「男性優位の社会」に対して当事者として発信していくことには、勇気や覚悟がいるようにも思います。

:僕が育ってきた家庭環境やコミュニティは、圧倒的に男尊女卑で、母や姉が苦しんでいるというか無意識に抑圧されているような姿を見てきました。法事や葬式でも、女性は台所でずっと動いていて、男性は居間でずっと座って駄弁っている。それが当たり前の風景だったので、今でも気を抜くと父のようになろうと思えば簡単になれちゃうと思うんです。一方、思春期に留学して過ごしたアメリカの家庭では、男性も女性と同じようにずっと動いていた。その姿もインストールされていて、僕はやっぱりこっちを選びたい。母や姉のようになかなかごはんにありつけない女性をこれ以上増やしたくないんです。

僕は映画を撮る前、10代の若者の生きづらさを解決するNPO法人の共同代表をしていたんですが、社会を変えるのって大変なんですよ。大きな目標を描いてそこに向かっていくのは、体力も気力もいる。いろんなステークホルダーに頭を下げて、あるとき支援者の方から「公務をしているみたい」と言われました。

それも大事な取り組みの方法なんですが、今は一旦おやすみして、観る人の視点を変えられるかもしれない芸術、映画づくりに励んでいる。根本にある想いは変わらないけど、長く続けていくために、戦い方を変えたんですね。いまは家族やパートナー、周りに困っている人がいないか、身近なところから違和感をスルーせず差別の芽を潰していけるか、が勝負だと思っています。

「男性優位の社会」の当事者として、想像力を持って、小さな変化を重ねていく


——自分自身や身近な人が感じる困難は、社会課題とも地続きにありますもんね。

:実はこの映画は、下の姉のために撮ったようなものなんです。というのも、姉はずっと生理がなかったんですね。男尊女卑の家庭環境の中で、兄と姉が家を出て、僕は逃げるようにしてアメリカに渡った。そのときにきょうだいのうち一人家庭に残った姉の生理が止まったという話を後から聞いて、ずっとどこかしらで贖罪意識があったんですよ。それで生理のことが気になっていたんだと思います。

結局いまも姉は観てないんですけど(笑)。余談ですが、この映画を撮り終えて大分の別府で編集作業をしているときに、姉から妊娠報告を受けたんです。それまで生理がなかったのに、まさかの妊娠。こんなこともあるんだって、驚きました。
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文=徳 瑠里香

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