中道:僕もイギリスにいましたが、当時アメリカではなくイギリスを選ぶ理由は、音楽かアートでしたね。美容関係も多く、あとは男子であればフットボール。
村瀬:僕はモッズブームを起こした『さらば青春の光』という映画が好きで、イギリスはモッズのファッションが溢れているとばかり思っていましたが、行ってみると誰もいなくて。ただ、パンクも好きで、パンクはまだ残っていましたね。2003年ごろのことです。
中道:僕とちょうど入れ替わりぐらいですね。2003年には、モッズは全然いなかったですね。
村瀬:ヒップホップやクラブシーンもかなり面白く、アートも当時はYBという、ヤングブリティッシュアーティストの脂が乗ってきていた時期でした。日本の大学受験だと、彫刻の場合はブロンズ像を粘土で模刻するなど、かなりアカデミックなスキルを学ぶことになります。ところが、イギリスの美術館では、牛がまっぷたつになって展示されていたりします。
中道:ダミアン・ハーストでしたっけ。
村瀬:そうですね。渡英後1週間目で見て、かなり影響を受けました。
Getty Images
中道:日本からイギリスの大学に入学してみて、どんな気づきがありましたか。
村瀬:僕は、ロンドンの南にあるサリー美術大学に通っていました。かなり田舎でしたが面白い大学でした。生徒のほとんどはイギリス人で、日本人はクラスに僕だけ。
授業では学生たちが与えられたテーマに沿って作品を作っていきますが、歴史を紐とくことで自分のアプローチを考えたり、ディスカッションをしていきます。学生や先生の前で「自分はどう思ってこの作品を作っているのか」と話したりするのは新鮮でした。
他の学生の作品作りを見るのも面白く、そもそも全然上手ではないところに最初はびっくりしました。それは、イギリスの後に住むことになるドイツでも同じでしたね。
日本の大学はスキルをランク付けして合否を決めるため、入学した時点でかなりのスキルを備えているものです。一方、イギリスの学生は鉛筆の削り方を知らなかったりもします。それでもその人の作品を見ると興味をそそられたりもしました。それに、スキルの上手い下手ではなく、面白いか面白くないかという論点になるので、広がりのある話もできましたね。
中道:上手いかどうかよりも、作品の背景やアーティストの意見、時代性が重視されますよね。
村瀬:それは今の仕事にも通じて、僕もスタッフに「whatではなく、whyを伝えなければいけない」と話しています。
新しい商品を作るときも、モノに溢れる社会で、なぜ自分たちは手間と時間をかけて商品を作らなければいけないのかというメッセージをのせるかのせないかでは、商品自体の意味が変わってきます。そういったコンセプトに関してはヨーロッパが長けている部分だと思います。