樹木とキノコとバニラとリグニン 自然の神秘と人間の知恵

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リグニンが地球上に登場するのが約4億年前で、そこからキノコが登場する3億年前までに、地球上の樹木は徹底して大きくなり、枯れて腐らず、地球上に堆積した。巨木時代だった。キノコが地球上いないので、木は腐らなかった。

映画「風の谷のナウシカ」に登場する地下の世界を思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。化学的な見方をすれば、あの巨木の地下の林は「リグニンの森」とも言えるだろう。ナウシカの“腐海”ではないが、キノコの腐朽菌が出現したことで、巨木は枯れて養分になり、シロアリを呼び寄せ、土になり……原生風景に移行していったのだ。

そのリグニンは、実は、バニラと同じ香りがする。中央アメリカ原産のバニラはコロンブスが発見したといわれ、ヨーロッパに持ち込まれた。甘く官能的な香りは、食べ物から香水から、一気にひろまった。

天然バニラからは、アイスクリームなどに入っている濃茶の粒がバニラ・ビーンズのほか、バニラ・オイル、バニラ・エッセンスが抽出されるが、それらは希少で高価なため、市場に出回っている多くは合成バニラ。そして、リグニンがその原料となっている。

バニラ
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材木からパルプをつくり、紙をつくる。その過程で材木を茹でた時の茹で汁からでてくるのを活用したのが、リグニンによるバニラ・エッセンスなのだ。香水には流行もあるのでメインノートには入っていなくても、隠し香りとしてバニラの甘さがはいってるものが多い。そのほとんどはリグニンである。

甘い香りの香水の淑女に出会うと、その官能に誘惑されるより、なぜか石炭やキノコを思い出してしまう僕は、まだまだ小学生の自由研究レベルから成長していないのかもしれない。

連載:オトコが語る美容の世界
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文=朝吹大

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