樹木とキノコとバニラとリグニン 自然の神秘と人間の知恵

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猛暑や異常気象の原因となっている環境問題は、年々、危機度が増している。今年のような暑い夏は、涼しい日がたまにあると、ホッとする。9月になり、コンビニに並んだ秋限定のビールを見ると、つい手にしてしまう自分がいる。ラベルが変わっただけなような気もするが、いち早く秋を感じたいからかもしれない。

その秋の味覚といえばキノコだろう。その王様は松茸だとか香茸だとか、干し椎茸や霊芝が健康にいいとか、美食に関する話題に事欠かないが、そのキノコは地球上でものすごく重要な生き物で、美容にも関係している。


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キノコの歴史をすこし辿ってみよう。46億年と言われる地球の歴史において、現代人類の歴史は数千年程度である。昨年、東京ミッドタウンのデザイン展の入り口に、面白い年表が貼り出されていた。一年間365日を地球46億年の歴史に例えると、人類の歴史はちょうど12月31日の11時59分59秒あたり、というものだ。

一方でキノコは、2億9千万年前の古生代の頃、突然変異で出現したと言われている。もちろん、恐竜時代のずっと前だ。約3億年前と考えると、さっきの年表でいえば12月9日あたりに出現したとなる。人類より遥かな先輩である。その出現に関しては別のジャンルで語るとして、本記事ではキノコの特異性と美容の話をしてみたい。

キノコは木を“腐らせる”


まず、キノコがなぜ重要かというと、この地球上で唯一、樹木を腐らせてくれる生き物だからだ。正確にいえば菌の話だが、キノコは木材腐朽菌といわれ、木材の主成分のセルロース、ヘミセルロース、リグニンを分解する。特に、樹木を立派に背高にする成分のリグニンを分解するのはキノコだけなのだ。

セルロース、ヘミセルロース、リグニン、いずれも耳慣れない成分のように聞こえるが、セルロースはプラスチック代替材料として注目されている。プラスチック削減は化粧品製造業界でも最重要課題の一つであり、植物を強く、直立させるセルロースを使った代替ボトルに期待が高まっている。

一方、木の成分の3割近くを占め、特に重要な役割をはたしているのがリグニンだ。リグニンは、樹木が100mも伸びて寿命を終えるまでの背骨をつくったと言われている。
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文=朝吹大

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