粒子や場だけでなく、人間さえもこちらの宇宙からあちらの宇宙へと移動させることができ、今よりもずっとよい別の宇宙で暮らせるようになるかもしれない。こうした考えは理論物理学の世界でも定着しており、量子力学の成果やマルチバースの概念などさまざまな可能性が指摘されている。
とはいえ、これらの世界は観測と測定が可能な現実とどんな関わりがあるのか? 最近、パラレルユニバースが実在する証拠が発見されたという話を聞いたが、ジョーダン・コルビー・コックスはその意義についてこう問いかける。
物理学者が南極でパラレルユニバースが存在する証拠を発見したという記事が出回っている。
では、真相は─。
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物理学の観点から言えば、パラレルユニバースは人々の想像を掻き立てる、きわめて魅力的な概念だが、その存在を検証するのは非常にむずかしい。パラレスユニバースの概念は当初、量子力学から生まれたが、この量子力学という分野は予測がつかないという点で悪名高い。システムを構成するあらゆる方法を熟知していても、結果が予測できないのだ。たとえば、一個のエレクトロンを二重スリットから発射した場合、そのエレクトロンがどこに着地するか確率を出すことはできても、正確な着地点を予測することは不可能だ。
量子力学には多世界解釈(MWI)と呼ばれる注目すべき考え方がある。この考えでは、起こりうるすべての結果は実際に起こるが、ひとつの宇宙ではひとつの結果しか起こらないと仮定する。そのため、起こりうるすべての結果が実際に起こるには宇宙が無限に必要となる。この解釈を否定する実験や観測結果はないため、他の解釈同様に有効な考え方と言える。
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物理学の世界で次にパラレルユニバースの存在が注目されたのは、マルチバースの概念との関わりからだった。われわれが住む宇宙は138億年前に高温のビッグバンによって誕生した。しかし、このビッグバンは宇宙の始まりそのものではない。それ以前にビッグバンを誘発する“宇宙のインフレーション”と呼ばれる別の段階がある。インフレーションが終わると、そのあとでビッグバンが起こる。