宇宙

2023.05.16 18:00

「パラレルワールド実在」の証拠ついに発見か

石井節子
科学の見地から、以下の解釈ができる。

・ANITA が検知した電波信号は説明がつかない
・高エネルギーのタウニュートリノは地球を上方へ移動するというのが彼らの主たる仮説だった
・その仮説はアイスキューブ観測施設の観測結果によって否定された
・以上のことから、ANITAが間接的に観測した粒子を発生させる天体の点源は存在しないことがわかる

だとしたら、パラレルユニバースはいったいどこにあるのか?

ANITAの観測を説明できる理由は三つしかない。これらの粒子を生成する天体がある、観測装置が故障していたか観測データの解釈に誤りがある、あるいは標準モデルの枠におさまらない、きわめて珍しい現象(CPT違反と呼ばれる)が発生したかのいずれかだ。優れた科学研究のおかげで、ひとつめの可能性は(一月に)除外されたので、正解はまちがいなく二番目の理由ということになる。三番目はどうか? われわれの宇宙がCPT(チャージ、パリティ、タイム)に違反できないとすれば、CPTが逆転するパラレルユニバースから来たと考えられるかもしれない。が、この説明は根拠に乏しく、ありそうにない。

nullビッグバンによって、反物質が支配する対極の宇宙がつくられ、その宇宙では従来の法則が逆転するという説を再発見し、普及させようとする物理学者が数年おきに現れる。その説には根拠はなく、むしろ反証のほうが多いが、めったに議論されることがない。E. SIEGEL, DERIVATIVE FROM ÆVAR ARNFJÖRÐ BJARMASON

科学において、画期的な説に依拠するときには、新たな物理的現象に合致しない従来の説をすべて排除しなければならない。過去十年のあいだ、数々の驚くべき主張がなされたが、さらに解明を進めたところ、どの説もことごとく崩れ去った。ニュートリノは光より高速では移動しない、暗黒物質や無菌ニュートリノは発見されていない、低温核融合は実在しない、不可能と思われていた”無反動エンジン”は失敗に終わったなど、例を挙げればきりがない。

この話は優れた科学とは何かを如実に物語っている。ある実験(ANITA)が予想外の現象を観測し、実験結果を公表した。より優れた実験(アイスキューブ)がその現象を検証し、主要な説を否定した。検証実験は最初の実験では何かがまちがっていることを強く示唆した。さらに科学的な検証が進めば、実際に何が起きたのかいずれ明らかになるだろう。現時点でわかっている科学的根拠に基づいて言うならば、パラレルユニバースはまだSFの世界の夢のままなのである。

forbes.com 原文

翻訳=北綾子/S.K.Y.パブリッシング 編集=石井節子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事