電波に反応する観測気球を用いた南極インパルス過渡アンテナ実験(ANITA)により、南極の氷の下から届く一定のエネルギーの電波が検知された。意図したとおりの実験結果が得られたのはよいことだ。理論上でも現実にも、宇宙には検出が困難なニュートリノをはじめとするあらゆる宇宙粒子が飛び交っている。われわれの体内を通過するニュートリノの多くは太陽や星、あるいはビッグバンによって発生するが、パルサー、ブラックホールなどの天体のほか、未知の不思議な物体を発生源とするニュートリノもある。
南極インパルス過渡アンテナ実験(ANITA)の準備をする研究者たち。この実験で、南極上空に浮遊させた観測気球が、検出不可能と思われていた粒子の電波を感知した。NASA
また、ニュートリノのエネルギー量は千差万別で、最大のエネルギー量を持つニュートリノは(当然ながら)きわめて稀な存在であることから、多くの科学者が関心を寄せている。ニュートリノは一般的な物質では観測できない。一億光年分の厚さの鉛を用いても検知できる確率は五割しかない。そのため、現実にはあらゆる方向から飛んでくると言っていい。
しかし、われわれが目にする高エネルギーのニュートリノははるか彼方で生まれたものではない。他の(同じくかなり高エネルギーの)宇宙粒子が上層大気に衝突し、一連の粒子を生み出すとき、その一部がニュートリノとなる。こうして生まれたニュートリノの一部は完全に地球を通り抜けるが、地球のいちばん外側にある地殻(あるいは氷)とだけ相互作用するため、その際に発する信号を検知できる。
高エネルギーの粒子によって空気シャワーが発生することは知られているが、地表に降り注ぐのは主にミューオン(ミュー粒子)であり、適切な方法を用いれば観測できる。ニュートリノも同時に発生し、地球を通過する場合もあるが、ANITAが観測した信号の説明はいまは否定されている。ALBERTO IZQUIERDO; FRANCISCO BARRADAS SOLASの好意により掲載
ANITAの実験で観測された珍しい現象は、ニュートリノが地球を通過する際に電波を発生する点では合致しているものの、エネルギー量があまりに大きく、制止されることなく地球を通過するのは不可能だ。
この現象は何回観測されたか? 三回だ。
それらのニュートリノは地球を通過する必要があったのか? なかった。最初のふたつは通常のタウニュートリノ(許容されている三タイプのニュートリノのひとつ)のエアシャワーだった可能性があり、三つめはおそらく実験的背景の一部だったと思われる。
事実、それらのニュートリノが地球を通過したことを否定する証拠はいくらでもある。アイスキューブ観測施設にはニュートリノの検知装置があり、もし高エネルギーのタウニュートリノが定期的に地球(と南極の氷)を通過しているならば、まちがいなくその信号を受信しているはずだ。けれど、そうした検出結果がないのは明白である。
南極の透き通った氷の内部で相互作用すると、ニュートリノは二次粒子を生成する。その粒子の軌道に残る青い光線がアイスキューブ観測施設の検知装置を通過する際に検出される。アイスキューブでは高エネルギーのタウニュートリノは検出されていないことから、天体にはANITAが観測したという電波の発生源はないと考えられる。NICOLLE R. FULLER/NSF/ICECUBE