コロナ後の観光 アナログなDX事業「ぎふ旅コイン」に期待


例えば、他県によくあるような紙によるお土産券でのクーポン提供にした場合、そこで使用したら終わりの単なるサービスだが、このぎふ旅コインは使用すると、観光客がどこに移動し、何を購入したかなどの詳細が、データとして県庁に送られる仕組みとなっている。これは貴重なマーケティング情報として次の観光施策に応用できるというわけだ。

一方、高齢の旅行者などにとってはアプリのダウンロードなど困難な場合もあるが、その場合は、他の家族の誰かがスマートフォンを持っていれば、そこに人数分の電子コインを加えることも可能とした。



また、うまくアプリを扱えない人のためには、説明ビデオを作成し、旅館の窓口などで、懇切丁寧にやり方を伝えるなど、岐阜県らしい「おもてなし」の一環として実施するよう、県の担当者が事業開始前に現地の観光事業者や物産販売店の人たちに要望しにまわったという。

「こんな面倒なことをして!」との一部の高齢の観光客からの批判も覚悟のうえで、この事業の意味と意義を直接現地に赴いて観光事業者の人たちへの説明に時間とエネルギーを費やすことは、DX推進といいいながらもそこはまだかなりアナログな部分があることを、私は「それも悪くないな」と思った。

公共事業では分配された公金をいかに活きた施策、持続可能な観光施策にするのかが需要だ。私も県の観光局長時代から、県庁スタッフとともに、そのための努力をしてきた。公務員はともすると公金や税金使用に対して安直な道に流れる傾向もありがちだが、いま敢えてそうではない道を実行しているスタッフの存在に、ささやかな嬉しさを感じた。

他方、コロナ禍は、さまざまな支援金や、補助金、協力金など、国民に対して公金が簡単に支給されることを体験させてしまった。観光も等しく、観光需要の喚起のためとはいえ、実感の湧かない膨大な金額を費やしての割引策は、バーゲンセールと同じで、終了後に旅行者が正規の金額を気持ちよく支払いたいと思えるかどうかには甚だ疑問が残る。私にはこのところの支援策は、麻薬のようなばらまき施策のように思えてしまうのだ。

観光産業の回復のためには、国や行政や他者の支援を待つだけでなく、自らが、動き、汗をかき、社会状況に真正面から向き合い、いま自分たちのやれることを考え、1人1人の観光客の人たちの心をつかむ努力をすること。地道すぎるかもしれないが、それこそが観光産業が失ってはならない大切な部分だと信じている。

連載:サステナブルツーリズムへの歩み 〜岐阜から発信する未来の観光
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文・写真=古田菜穂子

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地域と観光が面白くなる新局面

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