所有より参加を。伊藤穰一が語る「これからのお金・投資・会社」

写真=小田駿一


──「Forbes JAPAN」2016年8月号のインタビューでは、ブロックチェーンの現状を、「インターネットに例えるなら、まだプロバイダができていないのに、米eBayのアイデアを実現しようとしているようなものだ」と話されていた。要はインフラが未整備なのに、その先の議論を多くしているのは危ない、と。その時と比べて2022年はどれくらい進化したと言えるのか。

イーサリアムの話でいうと、インフラ面ではセキュリティやシステムが改善され、参加者コミュニティでは知識と経験が蓄積された。また参加者の中長期的な目線が変化しているのが一番大きいと思う。

2016年当時のメインプレーヤーであった不安定なプラットフォーム上のクリプトコインで荒稼ぎを目的とする層が、いま暗号通貨の価格が下落しているのもあって、減少傾向にある。それに対して、中長期的に価値のある事業を立ち上げようとする人たちの比率が上がってきてきるのが良い流れだ。

NFT(Non Fungible Token、非代替性トークン)の盛り上がり等、アーティストやコンテンツ系の発信者にはすでに活用されているケースも多いが、まだ規制も厳しくシステムのスケーラビリティも発展途上なので、我々の日常生活のなかに一般化するにはあと数年はかかるだろう。

──ビットコインとイーサリアムの思想の違いは、どのようなものか。

ビットコインとイーサリアムの思想の違い、これはもう2つの違う宗教の共存といえる。ビットコインは根本思想に“trustless”というのがあって、お互い誰も信用しなくても取引が上手くいくべきだという、強固なセキュリティに担保されたひたすら非中央集権的な考え方。そのためシステムにほとんど拡張性がない。

対して、イーサリアムはその制約から自由になろうと生まれたもので、プログラム言語があり、NFTやDAO(decentralized Autonomous Organization、分散型自立組織)を生み出せるような拡張性がある。トラブルが起きたときにはお互いを“trust”して、コミュニティで相談して解決すればいいと考え方が根底に存在する。

これがビットコイン側からみると中央集権の所在が国からイーサリアムに代わっただけじゃないかという批判もあるが、双方を比較するとするならば、人間社会的には拡張性も可逆性もあるイーサリアムの方が日常に使うには向いているし、一方で国の間の銀行決済や株の売買などはビットコインの方が適している。そういう意味で、ビットコインは通貨であるのに対して、イーサリアムは通貨でありかつインフラでもあるといえる。
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文=岩坪文子、荒川未緒

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