そういう風にみんなが参加できる経済を実現できるインフラがweb3にはある。現行の法律下でもDAOは株主のいない財団法人になっているものが多く、ユーザーみんなが株主だという意識がちゃんとある。
中小企業をとってみても、今は会計が監査されていないために株を発行できないのが、全ての取引を記録して改ざんができないというブロックチェーンの透明性を利用すれば、デジタルなインボイス制度を作ることができる。小さな街角のラーメン屋さんもお客さんにトークン発行したりなど、中小企業も、個人も直接金融に参加できるような世界ができるはずだ。
このようなもっとフェアで透明性が高い経済を実現できれば、不労所得で稼ぐ資本家vs労働者という従来の構図が崩れて、お金の悪いイメージだったり、お金の流れ方すら変わっていくのではないかと期待している。
また、オンラインのアクセスビリティも「参加」を促進する大きな特徴の一つだ。物理的距離がある方、対面コミュニケーションが苦手な自閉症の方など、それぞれにアクセサビリティを与えられる。インターネットは匿名であるがゆえに、自分が表現したいアイデンティティだけを主張できるという自由さがあって、それによって日常的な差別を減らす一助にもなるだろう。
──web3でよりよい未来をつくっていくために、これから必要なことは。
web3の最大の特徴は、「みんなが参加できる、透明性が高い、フェアなシステム」だ。例えばメッセンジャーアプリであるフェイスブックもラインも、システム的には相互に乗り入れできるはずなのに、ユーザーが声をあげなかったために別々のアプリケーションとしてそこに壁ができてしまった。
同じような過ちをweb3で起こさないためにも、やはり我々一人ひとりがテクノロジーに対するリテラシーを高め、個々が己の価値観やライフスタイルに従い、思いおもいのかたちで社会参加する。そんなweb3的ビジョンのもとで社会を再構築していくことが求められているし、デジタル化を通じて日本をグローバルな存在へと変えていくことが日本再生の道を開く唯一の鍵であると信じている。
伊藤穰一(いとう・じょういち)◎ベンチャーキャピタリスト、起業家、作家。現在は千葉工業大学変革センター所長、デジタルガレージの共同創業者取締役兼専務執行役員Chief Architect。2011年から2019年までは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務めた。主な著書に、ジェフ・ハウとの共著『9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために』(早川書房)、『テクノロジーが 予測する未来』(SB新書)がある。