中道:ブランドカルチャーがあり、作り出そうとしている世界観、提供する価値、タッチポイントがあり、そこへの賛同が20億円分の売り上げに繋がっている。その広がりによって、さらなる売り上げが見えてくる感覚があるのではないでしょうか。
生駒:そうですね。高いものを売ることは、ものすごく難しいことだと思っています。お客様の中には1度に50万円以上購入する方もいらっしゃいますが、そういう方は日頃から高いお買い物をして、良いものをよくわかっています。彼らに対して、商品はもちろん、写真や言葉遣い、カスタマーサポートも生半可なものではいけません。
ブランドは生き物みたいなもので、どのシチュエーション、どのタイミングで見ても、そのブランドイメージが融通無碍に行き届いていることが重要になります。
それをやりきれるかは、自分たちが何者かを深堀りできるかにかかっています。全ての行動に『SAKE HUNDRED』らしさを行き届かせるために、自分たちの理解を深め、言語化していくことにも、かなりの時間と頭を使いました。これができなければ、ブランドは成り立たないと思っているほどです。
中道:コム・デ・ギャルソンの川久保玲さんはかつて、「いいものは高いんです」とバシッと言っていました。その言葉を聞いて思ったのは、価値のあるものの魅力をしっかり伝えれば、たとえ高い金額でも、買う人にとっては妥当な金額だということ。
日本は価値を高め、その商品の世界をどう作るかを怠っていたと思うだけに、『SAKE HUNDRED』を中心に、まだ可能性がありますよね。
生駒:そうですね。どう伝えるかがすべてだと思っています。日本酒を広げていきたい、日本酒を売っていきたいという人は僕らに限らずたくさんいますが、彼らと僕らで何が違うかと言えば、彼らが日本酒の魅力をそのまま伝えようとするのに対して、僕らは自分たちのレンズを通して、日本酒の世界を表現しようとすることです。
僕らのレンズを通して見ると、日本酒はラグジュアリーに映ります。日常的に飲むものではなく、たくさん飲むものでもないのかもしれないけれど、人生のとっておきのタイミングで飲むにふさわしいものです。
「日本酒はこういうものです」ではなく、「僕らは日本酒をこう捉えています」という表現ができるかが、まさにブランド作りであって、その発信が結果として日本酒を広げることになります。そうしたコミュニケーションを取らないと、ポテンシャルのある日本酒も世界で認められないと思います。
中道:素晴らしいですね。日本と世界で日本酒の売り上げはどうですか。
生駒:世界での売り上げは1%ほどなので、これからですね。やはり、日本で売れているから海外でも売れるという順序は、忘れてはいけません。
中国でも米国でも、現地の方々と話すと、「日本ではどういう存在なんですか」とよく聞かれます。日本酒は、世界ではまだまだニッチな産業。「日本で売れないから海外なら売れると思ってきたのではないか」という見方もなくはありません。そこで重視されるのが、原産国である日本でどう評価されているか。
そのために、今はまず日本での足腰を固めるとき。日本での実績を持って海外での信頼を得てから、広く消費者向けに拡大する流れになるべきだと考えています。