生駒:海外を回ることで考えさせられることもあります。強烈だったのは、香港の酒屋で日本酒が数十万円で売られていたこと。金額の妥当性や定価の話を置いておけば、海外にはいいものにはお金を払うお客様がいるということに、衝撃を受けました。
例えば「月桂冠」は米国にも会社があり、カリフォルニアで働く社員の大半は現地の人たちで、国籍や外見を問わず、様々な方々が酒造りをしていました。日本の酒というより、その土地の地酒になっていて、グローバルの可能性を感じましたね。
日本酒のポテンシャルは高く、グローバルの可能性もあり、高単価に意味がある。そこで、高級日本酒ブランドという骨子ができました。
また、酒蔵を回っていると、そのほとんどがビジネスとして苦戦していることもわかります。利益率が低く、薄利多売で良いものをより安くというビジネスモデルで発展してきたので、「儲からん」でも「値段を上げられん」と。その意味でも、高級酒市場を開拓することこそが、日本酒市場を切り開くために一番大事なのではないかと考えました。
そこを突き詰めることが自分たちの役割だと思い、2017年にグローバル志向の高級日本酒ブランドを始めようと思い、資金調達や酒屋のM&Aを行い、2018年に『SAKE HUNDRED』をリリースしました。
「百光 BYAKKO」 3万8500円
中道:良いものを安くというのは日本だけで成り立っていた考えで、海外に目を向けたら良いものには相応のお金を出している。それに関わっているすべての人たちにお金がしっかり回るという前提があり、自分たちが苦しみながら何とかするという根性論はありませんね。
だからこそ、伝える価値を見定め、発信しなければならないものの、それは日本人の苦手なこと。もったいないと感じることもたくさんありますが、実際数年間やってみてどうですか?
生駒:今4年目で昨期の売り上げは20億円と、かなり順調に事業が伸びています。
3年で20億を作るのはスピード感があると思います。ただ、「自分たちだからできた」というより、もともと自分たちには見えていた価値なので、「やはり」という感覚です。日本酒の本来の価値の一端を僕らが証明した感覚なので、おだやかな気持ちとも言えますね。
僕らはスタートアップであり、ブランディング業にも見えるので、最初は業界で懐疑的な声もありました。ただ、本質な価値があるからブランディングやマーケティングが生きてくるので、『SAKE HUNDRED』の価値が伝われば伝わるほどそういった声も減っていきました。今ではむしろ蔵から協業の相談も多くなってきました。
中道:『SAKE HUNDRED』と他の日本酒との違いは? どういう形で売り出しているんですか。
生駒:僕らは蔵を持っていないのでOEMです。しかしもちろん、委託先の酒蔵のお酒とは違います。僕らはラグジュアリーな体験の提供、もっと言えば「心を満たし、人生を彩る」というブランドパーパスに紐づいた価値を、お酒で提供するべきだと考えています。
そのため、体験、余韻、味わい、香りといったすべてを、情緒的な価値の提供のために設計しているところが根本的な違いになります。つくったものをどう届けるかではなく、届けたい価値のゴールが見えていて、そのためにどうつくるかを考える。この差はすごく大きいと思います。
全国の酒蔵を回っていた経験から、設備や技術、人材、お米、酵母などに関する情報を持っているというバックグランドも強みですね。