この研究では、自分もいつか死ぬことを意識する人は、YOLO(「you only live once」人生は一度きり、だから意味があろうとなかろうと何でも好きなことをやれ)という考え方を拒否しながらも、高潔で充実した人生を送ろうとする意欲を持つことが示唆されている。
心理学者のスーザン・ブラック、エミリー・ムロズ、キアナ・コグディル・リチャードソンの3人は、私たちの死について「私たちが人生をどのように生きるかの、唯一とはいわないまでも、最も重要な動機づけだ」と述べている。
彼らは「大人は命に限りがあることを理解しており、そのことを意識することが、良い人生を求める動機になるのです」と説明する。「もし死がなければ、『いまここ』での人生を最高のものにするための動機がないことになります」。
研究者たちは、有限性が人々の人生におよぼす影響を調べるために、人々が内面化した人生の物語、すなわち「ナラティブ・アイデンティティ」を調査している。ナラティブ・アイデンティティは、自分の人生がこれまでどのように見えてきたのか、そして将来どのようになるのかについての統一された感覚として理解することができる。
研究者は、研究参加者を3つのグループに分けて、それぞれの最も内面的な自己を規定する記憶(self-defining memories)を語ってもらった。
1. 最初のグループは、現在の自己を規定している記憶を語るよう求められた
2. 2つ目のグループは、一般的な自己を規定する記憶について語るよう求められた
3. 3つ目のグループは、死後どのように記憶されたいかについての例を挙げてもらった
そこから次のことがわかった。
1. 参加者は、自分がどのように記憶されたいかについて語るように言われると、自分を高潔な人物だと表現する自己規定記憶を語る傾向があった
2.一方、参加者が現在の自己を規定する記憶だけを語るようにいわれた場合には、高潔な自己規定記憶を語る傾向は少なかった
この結果は「YOLO」的な生き方とは一線を画すもので、むしろ「eudaimōn(エウダイモン)」的な幸福、つまり(良く生き良く行為することで)名声や遺産を残すことに重点を置いた生き方を強く示唆している。