経済・社会

2022.07.09 20:00

中国に抵抗し続ける香港映画人たちが繰り広げる自由への闘い


香港にいて香港をテーマにした映画をつくりながら香港では上映できないというジレンマを抱えながら、前述の「乱世備忘 僕らの雨傘運動」のチャン・ジーウン監督も、新作「Blue Island 憂鬱之島」(以下「憂鬱之島」)を完成させた。この映画は日本と香港の共同製作であり、クラウドファンディングで資金が調達された。こちらも香港での上映の予定はない。

それでも「時代革命」も「憂鬱之島」も世界各地の映画祭で上映され、高い評価を得て、受賞も果たしている。世界は香港映画を無視していないのだ。

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「時代革命 REVOLUTION OF OUR TIMES」(キウィ・チョウ監督、2021年) 8月13日より、渋谷ユーロスペースより順次全国公開

自由のための遊撃戦


「時代革命」と「憂鬱之島」を観ることができた香港人の話を聞こう。フリーライターの伯川星矢氏は香港人の父と日本人の母を持ち、香港で生まれ育った在日香港人である。以下は彼の話だ。

「『時代革命』はデモに参加した香港人たちに寄り添う形の映画です。2019年の香港民主化デモがどんなものであったのか、香港人が何を求めていたのか、それが痛いほど伝わってきます」

作品には、デモ隊が投げる火炎瓶や彼らの破壊の映像もある。だが、こうしたシーンからは、そうせざるをえなかった香港人の切実な状況が伝わってくる。

「『憂鬱之島』は、3つの時代の香港人の証言に、現在のデモ参加者などの若者たちがその当時の人たちを演じるという形で、香港の特異な成り立ちについて的確に描いています」

この作品では、1966年から始まった、英国植民地政府に対して当時の親中派の香港人が起こした「左派暴動」も描かれる。逮捕投獄された当時の若者を演じるのは、2019年の香港デモで逮捕された学生だ。暴動で罪に問われた香港人が時代を超えて交錯するシーンは「いちばんインパクトがあったシーン」(伯川氏)でもある。

他の時代としては、天安門事件の支援を香港で行なった当時の活動家や、文化大革命の1960年代に中国本土から自由と富を求めて越境して香港の在留資格をとった世代が描かれる。

「世代を超えた香港人を描く『憂鬱之島』は、香港とは土地ではなく人であるということを何より語ってくれています。だから、国家安全法の下でも香港人は自由をまだあきらめていないのです」

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「Blue Island 憂鬱之島」(チャン・ジーウン監督、2022年) 7月16日より、渋谷ユーロスペースより順次全国公開

たとえ香港で上映できなくとも、世界に向けて発信していく──、さながら「時代革命」と「憂鬱之島」は、世界を舞台に自由のための遊撃戦を繰り広げているように見える。それは、かつて生み出してきた娯楽作品とはまったく異なる、新しい香港映画なのだ。

連載:Action Time Vision ~取材の現場から~
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文=小川善照

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