中絶違憲判断は、ジェンダーだけでなく貧困層への攻撃でもある

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中絶は、女性を従属させるための権力闘争だと言う人がいる。もちろん、そのとおりだ。どんな状況であっても妊娠を成立させて子どもを救う一方で(州によっては女性が死ぬことさえある)、出生前のケアや出産費用、生まれた子供へのサポートは一切提供しないという主張を、合理的に説明する方法が他にあるだろうか? (どんな避妊法も100%有効ではないことを忘れてはならない)。

「キリスト教福音派は中絶を許さない」という主張は、彼らは中絶をしないということと同じだと思われるかもしれない。しかし、彼らも中絶をする。

クリスチャン・ポスト紙によると、キリスト教の研究団体が2015年に実施した調査から、中絶をした女性の約70%がクリスチャンを自認しているほか、「中絶した当時、少なくとも月に1回以上教会に通っていた」と答える女性が43%に上ることがわかっている。5分の1は、週に1回以上教会に通っていた。約52%は、中絶のことを教会の誰にも話していないが、裏返せばこれは、48%が話したことを示唆している。

公に何と言おうとも、福音派の中にも、中絶を受けたいと思う女性がたくさんいることは明らかだ。彼女たちはおそらく、他州へ行ってでも中絶を続けるだろう。これは、中絶が必要になった場合、従業員に旅費の支給を約束したいくつかの企業が取っている解決策と同じだ。そしてもしかすると、加入している保険のプランでその費用がカバーされる場合もあるかもしれない。

しかし、こうしたことにはすべて、条件がつく。つまり、支援を提供してくれる企業で仕事に就いていて、適切な医療保険に入っていて、仕事を長期で休むことができ、会社が援助してくれない場合でも旅行するお金があれば、という条件だ。

現実の中絶は、お金がなくて他の選択肢を選べず、十分な避妊や医療を受けることもできず、少なくとも中流階級の人ならば享受できる支援も得られない人々にとっての最後の選択肢であることがほとんどだ。

米国勢調査局が発表した最新の統計によると、2020年時点の米国の貧困率は11.4%だった。これは、2019年の10.5%から増加し、5年ぶりの上昇となった(パンデミックの時に、貧困層が救済資金で生活を維持し、その支出のせいでさらなるインフレが引き起こされたと考えていた人もいるかもしれないが、そうした人たちには、この数字の意味はわからないだろう)。
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翻訳=藤原聡美/ガリレオ

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