藤吉:カルチャーとクリエイティビティの話で思い出すのが、3年前のSMALL GIANTSのアワードです。ご存知だと思いますが、COEDO(コエド)ビールってありますよね。あれは協同商事という埼玉県の川越にある会社が製造されていて、社長は朝霧(重治)さんといいます。
中道:先日、僕も楽しく対談させていただきました。
藤吉:協同商事はもともと1970年代に埼玉県川越市で有機栽培の産地直送システムをつくった日本の先駆者ですが、彼らは2006年に「クラフトビール」という分野を開拓するんです。当時はまだ「地ビール」という言い方しかなかったんですが、ドイツから職人を招いてクラフトビールを作ったりして。
それを大手メーカーが真似をしていくんですが、朝霧さんの話を聞いていて「クラフトビールって面白いな」と思ったのは、世界中に小規模のクラフトビールのインディーズの業者がいっぱいあるんですよね。
彼らはインディーズだから本当に自由で、世界中のクラフトビールの人たちと仲間になって、フェスをやるんですよ。川越の工場にみんなで集まって、歌を歌ったり、地域住民と交流したり。そして、これは大きな企業にないなと思ったのは、レシピも公開するんですよね。
中道:オープンイノベーションですよね。
藤吉:そうなんです。「このビールにこれを混ぜたら美味しかったから一緒にやろうぜ」みたいな。アメリカ、スペイン、オーストラリア、いろんな国の人たちと「このレシピが面白いよ」って、みんなで実験をし合う。オープンっていうのは、まさにカルチャーやクリエイティビティの原点だと思うんですよね。みんなでシェアして、そこからまた新しい価値を作ろうっていう。
中道:たしかに。オープンでできるってことは、絶対的な自信を持ってるんですよね。自分たちで実践を重ねているから。
藤吉:彼らは挫折を経験しているという強さもあります。地ビールブームは90年代に一回終わったんですよね。協同商事も、工場まで作った後に厳しい状態になって、どうにかしなきゃならないときに、ドイツから職人を招いたりしてクラフトビールという分野を開拓していく。そこで大事なのが、やっぱりこだわりですよね。味だったり素材だったり。そこからカルチャーまで発展して行くストーリーは面白いなと思いました。
中道:例えば、僕が普段ブランドを作ったり、プロデュースしたり、コミュニケーションしたりしていることにも共通するんですが、本当のコアな部分というか、一番研ぎ澄まされた真ん中に、深度とか強さがあるかないかなんですよね。
藤吉:COEDOビールの取材をしたときに、「へえ~」と思ったのが、協同商事という社名についてなんです。
「協同商事っていう名前はちょっと平凡すぎませんか? なんで、こんな名前なんですか?」って聞くと、実は会社を作ったのが、奥さんのお父さんで農業理論家であり実践家だった方です。農業へのこだわりがある方で、会社の設立時に「経営者も従業員も農家も消費者も協同で進んでいこう」という考えからこの社名をつけたそうです。
大量生産型のものづくりは賃金が安い国に移っていくだろうから、付加価値の高いものを日本の農業で作っていこうという考えがベースにあり、なるほど「名前に歴史あり」というか。中道さんがおっしゃったコアの部分をちゃんと持っている会社だから、クラフトビールでも上手くいったんだなと思いました。