ビジネス

2022.06.27 20:00

「おしゃべり」というイノベーションの原点

番組のナビゲーターをつとめるKitchen & Companyの中道大輔(左)とForbes JAPAN編集長の藤吉雅春


中道:協同商事はSMALL GIANTSのグランプリでしたが、それこそそういう芯の強い人たちとForbes JAPANはたくさんのつながりがありますよね。
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藤吉:はい、こういうのはもっと広げられないかなと思っています。例えば今年からは、自治体とForbes JAPANでSMALL GIANTSの連携協定を結んで、情報が直に入ってくるようにする取り組みを始めています。先日、大阪府の八尾市の市長と調印式をやってきました。

八尾市は一般的にあまり知られていないと思いますが、なぜかそこから面白い製造業の人たちがいっぱい出てきていて、世界に羽ばたいている会社もあります。なぜそれができたのか掘っていくと、やっぱりおしゃべりなんですよ。熱血漢の市役所職員が交流できる場を作って、一匹オオカミだった経営者たちを交らわせた。

そしたら話が盛り上がっちゃって、全然違う業種なのにアイデアを出しあうようになったんです。そこでいろんないい商品が生まれて、もともとBtoBの会社が多かったんですが、メジャーになっていったんです。
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中道:僕は日本って、企業だけじゃなくてすべてにおいて、世界で一番平均点が高いと思うんですよね。



藤吉:層が厚いんですよね。地域によって盛り上がってる・盛り上がっていないという濃淡の差はありますが、ひとつひとつ「点」で観ていくと面白い。八尾市以外でも、関西には結構面白い企業が出てくるんですよ。なぜかというと、一つは「一回瀕死の状態まで落ちているから」なんです。

中道:どういう意味ですか?

藤吉:日本が豊かだった時代は、日本の中小企業は優等生が多かったんですよ。大企業からの発注に100点満点で完璧に応えることができる。技術は最高なんですよね。ところが、関西は大企業の本社が次々と東京に移るなどずっと地盤沈下と言われるようになるんです。

産業そのものが斜陽になっていき、泥沼から抜け出すために会社を畳むかっていうときに、とんでもない発想が出てきたりするんです。

2018年の第1回SMALL GIANTSでグランプリを取ったのは、京都のミツフジという会社でした。もともと西陣織の帯を作っていた会社なのですが、ダメになった後、1970年代ぐらいからカーテンのレースとか「編み」に転じます。しかし、繊維そのものが日本は斜陽産業になっていきます。

技術力は最高なのにやっぱり食えなくなり、会社が廃業寸前になったとき、先代が息子に「お前が借金背負え」と呼び戻すんですよ。IT企業で働いていた息子は、しょうがないから田舎のために一肌脱ぐんですが、相当苦労されて。

ただ、あるときに、父親が作っていた「銀メッキ繊維」の導電性(電気を通しやすい)が高いと気づくのです。スーツの裏地とか靴下に使う消臭の布地は “銀メッキ繊維”でつくられたすごい技術なんです。

これも、消臭スプレーが出始めてからあまり使われなくなったのですが、息子はそこにIT技術を持ち込んで、心拍とか体の内面を測るIoTウエアラブルを作ったんです。すると世界的にあちこちからオーダーが来て、米国のプロバスケットボールチームが選手のコンディション計測に活用したり、IBMがグローバルパートナーにしたり、工事現場の人たちの熱中症対策(危険になるとアラームが鳴る)に使ったり。

やはり一回廃業寸前まで落ちると、足元にいろんな得意技が落ちていることに気づくのですよね。
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文=小谷紘友 編集=鈴木奈央

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