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2022.06.27

普通は0点 スター・サイエンティストが育てる起業家新世代


牧:ここでは仮にサイエンスを、「再現可能性のある法則を発見すること」と定義し、ソーシャル・サイエンスも同じだとしましょう。私は、冨田さん率いるIABと山形県・鶴岡市の取り組みが、一つの成功モデルとして鶴岡市だけではなく、日本の色々な地域で活用できるような知見を作ることが重要だと考えています。一人のサイエンティストとして鶴岡でのご経験から一般化できる法則があるとすると、それはどのようなものでしょうか?

冨田:ご指摘のとおり、サイエンスの研究成果は「再現性があること」は極めて重要です。例えば、14年に科学誌「ネイチャー」に掲載されたSTAP細胞の論文は、世界中で追実験が行われましたが、誰にも再現できず、また不正が発覚したりして、結局取り消されましたね。つまり、特定の手法と結果、そして結論があり、その手法通りに第三者が追試をしても結果が再現できない場合は、その論文の結論に疑義が残り、さらなる検証が必要ということなのです。

ところが、サイエンスにおいても再現がもともとできない分野も存在します。たとえば「生命進化」です。人類がどう進化してきたか、再現することはできません。それから医学の症例報告として、一人の患者さんに対して「Aという治療法をしたら、Bが改善しました」という論文もありますが、これも再現性はありません。

「薬Aを飲んだところ、病気Bが治った。これは、薬Aが効いているからだ」という結論にもっていきがちですが、たまたまかもしれません。薬Aの効果は、薬Aを飲まなかった別の人と比較しない限り、結論が出ないのです。しかも同じ病気で同じ遺伝的背景で同じ生活環境の人と比較しなければなりませんが、ヒトの場合は不可能ですので、比較対象がないから再現性を担保できないということになります。

同じように、社会科学にも「ケース・スタディー」というものがあります。Aという状況で、Bを実施したところ、Cという結果になったという事例を観察しまとめたものです。そこで導き出された原因と結果を確かめるためにはまったく同じ状況で同じことを実施し、同じ結果になるか見る必要があるのですが、それは不可能ですよね。

これが自然科学であれば、まったく同じ条件下でマウスや大腸菌を使った実験ならば検証できます。そういう意味では私にとって、社会科学、特に「ケース・スタディによる社会科学」は新しい分野で、自分なりにも試行錯誤がありました。

牧:社会科学も色々な流儀がありますが、日本ならではの社会科学の流儀があったのかもしれません。私は米国でトレーニングを受けましたが、米国の社会科学では、かなり自然科学に近い、例えばランダム化による実験なども行います。

例えば、「補助金が地方創生の役に立つか」という仮説を検証したいとき、発展途上国であれば補助金が安く済むので、発展途上国の町を数十カ所選び、それをランダム化したうえで半数に補助金を出し、残り半数はコントロール群にし、その3年後の差を見る、ということをします。

その比較を通して分析することで、もちろん多少のバイアスは残るにしても、ある程度は科学的に検証することができます。その点では、冨田さんがなさってきたことは単独ケースですよね。

冨田:再現性は担保できないわけですね。そうしたこともあって推測で議論するわけです。自然科学でも、進化のような研究は絶対に実証はできないので。

牧:ダーウィンの進化論というのは、ある種の定性研究ですよね。定量的には測れていない。ガラパゴス諸島を観察して、その結果、立てた仮説が受け入れられているということですよね。
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インタビュー=牧 兼充 写真=能仁広之

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