世界的にも新しいこの未知の領域に精力的に取り組んでいるのが、慶應義塾大学環境情報学部4年生の伊藤光平。彼が代表を務める「GoSWAB」プロジェクトは、都市の微生物を調べることで、知られざる「人と微生物の関係」を明らかにしようとしている。
──微生物には病原菌から体内常在菌まで、いろいろな種類がありますが、伊藤さんは微生物に対してどのようなイメージをもっていますか?
普段はあまり意識していませんが、人間って、微生物と共生することによって健康を維持できたり、生き続けられていたりするんですよね。あるいは「脳腸相関」といって、腸内にいる微生物のはたらきによって、抑うつや不安などの情動変化を引き起こすことがわかっています。
微生物って、目には見えないのに、間違いなく人間の周りに常にたくさんいて、自分たちに大きな影響を与えてしまう。そこが面白くもあり、恐ろしくもあるなと思っています。
またぼくの研究結果では、都市の微生物の6割がまだ解明されていないということがわかっています。ぼくはいま、これだけわからないものに囲まれて生きているのに、なんでみんな健康に暮らしていけるのかな、という疑問をもっています。
これから自分が研究を進めて論文化したり、世の中に対して問題提起をしていくことによって、多くの人が自分たちを取り巻く微生物について考えるきっかけになればいいと思います。
──都市環境微生物の解明が進んでいくと、どういうことが可能になるのでしょうか。
おそらく、東京都内でも地域によって微生物の分布が異なります。研究が進んでいくと、微生物から都市の特徴がわかってくるでしょう。
微生物をサンプリングする際、同時に環境データ(湿度、温度、採取時間、人口密度など)も計測していますので、微生物のデータと環境データを結びつけることで都市の特徴が見えてくるはずです。それを発展させると、都市開発につなげられるかもしれません。
たとえば発がん性物質として知られる臭素酸を、高速に還元できる微生物がいます。そういった人の健康にかかわる有用な微生物を、都市から多く見つけることもできると考えています。また、採取した微生物とその環境データを調べることで、ある微生物がどんな環境や素材の中に多く生息しているかがわかるでしょう。それらの結果は建築などの分野に応用ができるかもしれません。
微生物を採取するためのチューブと綿棒。伊藤はクラウドファンディングを使ったり大学へ研究費を申請したりすることで、自ら資金を集めプロジェクトを行っている。