ビジネス

2022.06.08

尿1滴でがんリスクを判定 5年でユニコーン入りしたヒロツバイオの戦い方

ヒロツバイオサイエンス代表 広津崇亮(撮影=曽川拓哉)


「余計な研究はするな」


──起業に際して、ベンチャーキャピタル(VC)の出資を受けなかったそうですね。

VCの目的は株式を上場させ、利益を出すことです。しかし当社の場合は、自分が発明した技術を世の中に役立てたい、広く普及させたいというのが第一の目的です。研究開発にお金がかかる場合はすぐ上場しないといけないですが、当社はバイオベンチャーと言いながらも検査なので、臨床研究はそれほど資金がかかりません。

ならばいきなり上場しなくても、じっくり研究開発をしようと。しかしVCは上場の話ばかりで、余計なことはするなとさえ言われました。

──余計なこととは?

限られた研究だけをすればいいと。例えば、がん種を特定する検査の研究はするなと。彼らは、一つのサービスで上場したらあとは面倒を見ません。しかし私は、世の中のためになって、できれば会社を永続させたいと思っていたので、余計なものに見える部分こそ大事だったのです。

彼らは上場益を得たいという理由から「株価は低いほうがいい」とも言いました。我々は、上場した場合の支配比率を考えると、株主の保有比率が高くならないよう、株価は高いほうがいいわけです。だから、利害が一致しない。

──ただ現実問題、創業時に出資してくれるのはVCしかありません。

そこは理解できます。しかしまずお金を貰ってから研究をして、会社を大きくして、また資金を調達するというパターンだと、株価が低い時に出資してもらい、そのお金によって研究を進めるようになります。私は、スタートの時点でお金を貰うのではなく、研究を進めて株価を高くしてから出資してもらうという循環に変えました。

そうしないと、創業者がほとんど株を持たない状況で上場することになり、VCの言いなりになるしかない。研究のようなお金のかかることは極力せず、ひたすらいまある技術を売って利益を出す、そんな志の小さな会社になってしまったかもしれません。

研究者は誰しも、研究費の工面に苦労しているので、企業価値がまだほとんどないような状況で5000万円出資しますと言われたら、喜んでしまいます。でもその代わり、スタート時点で株の75%を取られました、みたいなことってよく起こるわけです。

CEOの広津崇亮

我々はそこをグッと我慢して研究開発を進め、企業価値を高めてからドンと出資してもらった。高めてからであれば、創業者の株保有比率が下がらないので、そのあとの経営が自由にできますよね。

ゼロ円の臨床試験ができた理由


──起業の常識に従わなかったからこその成功と言えそうです。

従わなかったのは起業の常識だけではありません。我々、お金がないわけです。でも臨床研究は、特に薬の開発では何百億円という資金がかかることもある。

私は、そんなことは知らず、病院に「論文を書く権利を渡すので、我々の研究に付き合ってください」と言いました。

ただ、論文を書くということは病院側が主体的に研究を進めているということになるため、そこに我々が付き合っているという関係性になったんです。だから無料で臨床試験ができた。
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文=木原洋美 編集=露原直人 撮影=曽川拓哉

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